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第31回 介護福祉士国家試験 科目別分析【午後科目】

領域 午後科目 分析
領域III
こころとからだのしくみ
発達と老化の理解  問題71「加齢に伴う身体機能の変化について」、問題72「尿失禁について」、問題74「薬の種類や効果について」、問題75「便秘について」、問題76「変形性膝関節症について」の設問は、頻出問題であり過去問中心の勉強で得られる基礎知識で充分解ける内容であった。問題69は「乳幼児の心身の発達に関する問い」で、頻出であるボウルビィの愛着理論が正しくわかっていれば、多少知識があやふやであっても消去法で正解が導けたのではないか。問題70は、「加齢に対する差別や偏見」というエイジズムの意味を知らなければ引っかかってしまった受験生は多かったであろう。
 この科目の唯一の短文事例問題である問題73は、中途半端な知識で臨まれた方は「学習生無力感」か「反動形成」かで大いに悩んだのではなかろうか。総じて本年も、赤マル福祉の過去問を中心とした学習で6~7問は正解できる例年通りの難易度であったといえる。
認知症の理解 今年度の認知症の理解においては、問題77認知症の基本的な対応知識に始まり、問題78には2016年の国民生活基礎調査から見えてきたデーターを基に介護の実態の作図を読み取り現実理解をしたうえでの解答を促していた。これから益々増加していく認知症の人と、 在宅での老老介護の過酷な実態の理解が必要であることが示された。そのうえで問題79、80、81、82,83は地域に多く見られる軽度認知障害の様子を知っているかが問われ、認知機能障害の理解や地域支援のあり方、とりあえずの抗認知症薬の知識が問われた。問題84は原因となる疾患とその特徴的な行動心理症状(BPSD)を問い、問題85においては重度の認知高齢者へ胃瘻栄養法の支援のあり方としてどのようなことが適切かの解答を促された。胃瘻栄養法は高齢者の尊厳と言う観点から見てその是非を問う声が大きくなってきていることから、十分考慮して考えていかなければならないことである。問題86は在宅介護を担う家族の立場に立って理解判断が求められた。地域包括ケアが進められていく中、近隣の助け合いや介護者の相談できる場づくり等、介護の支援者として関わる介護福祉職員として、いっそう理解を深め手助けしていく重要な役割であることを自覚していただきたい。
障害の理解  今回の「障害の理解」、問題数は例年と同じ10問であった。問題87は「ノーマライゼーション」、問題88は「リハビリテーション」と出題基準の中項目「障害福祉の基本理念」から出題された。問題89~93では身体障害、精神障害、知的障害、発達障害、難病から出題が続いている。統合失調症や知的障害については過去問題や模試問題に出題は多くみられているので落ち着いて考えれば答えを絞ることはできる。問題92の「発達障害者が一般就労に向けて利用するサービス」については、最近の障害福祉サービスの種類について理解しておく必要があるといえる。問題93では、「網膜色素変性症」に対する選択肢が他の眼病等の特徴が目立っているため、消去法でも対応できたのではないか。問題94は「障害受容における最初の段階」は、解答しやすい出題である。問題95は、関節リウマチの方の障害に伴う日常生活への影響をイメージできているかが問われている。問題96は、唯一短文事例問題であった。
 10問全体としては、科目内の出題範囲が狭く、法律や制度の出題がみられなかったこと、過去の出題傾向の内容の問題は少ないが基本的な内容が多いことから、難易度は少し低めの中程度といえる。
こころとからだの
しくみ
 出題数は昨年と変わらず、短文事例2問を含む12問で出題形式は五肢択一。出題内容は、「こころのしくみの理解」からライチャードによる老年期の性格類型1問、「からだのしくみの理解」から臓器と機能の組合せ1問、「身じたく、移動、排泄、死にゆく人」のこころとからだのしくみから各1問の出題で、唾液腺と唾液、良肢位、排便の仕組み、キューブラー・ロスの心理過程(事例)であった。さらに「食事、入浴、睡眠」からは各2問の出題で、糖尿病利用者の症状から予測される状態(事例)、胃ろう、皮膚の乾燥に伴うかゆみ、入浴介助、睡眠の仕組み等に関する出題があった。
 問題97ライチャードによる老年期の性格類型は、赤マル福祉の模擬問題「発達と老化の理解」でもふれており、分類された各項目を理解していれば容易に正答できた問題である。問題100の良肢位はこれまで出題実績がなく、正答した受験生は少ないと思われる。しかし、医療職との連携を深めるための必要な知識であり理解を深めてほしい。今回は疾患に関連した問題が少なく、問題102糖尿病利用者の症状から予測される状態(事例)のみであった。他の問題はこれまでも試験に度々出題されており、基礎的知識を問う内容で受験生は得点に結びつけることができたであろう。
領域IV
医療的ケア
医療的ケア  昨年同様出題数は5問で、今回事例問題は出題されなかった。出題内容を出題基準の大項目に沿ってみると、「医療的ケアの実際の基礎」からスタンダードプリコーションについ1問、「喀痰吸引(基礎的知識・実施手順)」から喀痰吸引が必要と判断された利用者に対する喀痰吸引の実施と気管切開し人工呼吸器を使用している人の喀痰吸引の2問、「経管栄養(基礎知識・実施手順)」から胃ろうによる経管栄養の実施手順とイルリガートルを用いた経鼻経管栄養の2問が出題された。出題は大項目を網羅しており、解答に時間を要するような難解な問題は見あたらず、難易度は標準的といえる。
 問題109のスタンダードプリコーションについては、感染予防の観点から医療スタッフの一員として確実な知識が求められている。出題された5問すべてが医療的ケアを行う上での基本的事項であった。医療的ケアは、出題数の少ない「人間の尊厳と自立」や「人間関係とコミュニケーション」のように他の科目と組み合わせた科目群ではない。得点がない場合には合格基準である「すべての科目群に得点すること」という条件から外れることになるため、基礎となる知識や基本的事項はしっかりと定着させ、得点につなげることが重要となる。
  総合問題  本科目は事例形式であり、4領域(人間と社会、介護、こころとからだのしくみ、医療的ケア)の知識・技術を横断的・総合的に問う科目である。1事例目は「脳出血後遺症のため左半身に不全麻痺がある男性、78歳」の事例。病院退院後の在宅生活検討のための会議に関する知識、利用者の自立を支援するための手すりの設置場所に関する知識、皮膚疾患(白癬)で生じる症状を踏まえた介護の留意点が問われた。2事例目は「レビー小体型認知症の診断を受けた女性、84歳」の事例。レビー小体型認知症の症状および移動支援の視点、介護保険法に基づくサービス内容に関する知識が問われた。3事例目は「うつ病の診断を受けた、両下肢麻痺がある一人暮らしの女性、26歳」の事例。うつ病で生じる睡眠障害に関する知識、うつ病の症状を踏まえた専門職としてのかかわり方、うつ病やストレス関連疾患による休職者に対する職場復帰に向けたリハビリテーションに関する知識が問われた。4事例目は「重度の脳性麻痺があり施設で暮らす男性、15歳」の事例。障害児の施設入所おける根拠法、児童発達支援計画作成を担う専門職に関する知識、てんかん発作が起きた場合の対応が問われた。
 本科目は例年、65歳以上・65歳未満の利用者が各2人出題されており、この傾向は今回の国家試験でも同様であった。利用者の個別性を理解したうえで多様なニーズに応え、適切な支援が実践できるための介護福祉士の実践力が問われている。

 

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