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第30回 介護福祉士国家試験 科目別分析【午後科目】

領域 午後科目 分析
領域III
こころとからだのしくみ
発達と老化の理解 本年も例年通りすべて5枝択一の全8問のうち「最も適切なものを1つ選べ」が1問だけで、ほか7問は「適切なものを1つ選べ」といった設問であった。問題70はキューブラー・ロスの死の受容過程、問題71は老化に伴う身体の変化、問題72は老化に伴う感覚や知覚の変化、問題74は嚥下障害、問題75はパーキンソン病に関する問いでいずれも頻出問題である。問題72の選択肢文にあった明順応と暗順応の比較で一瞬悩まされた方もいたであろうがこれら頻出問題の難易度は易しかったといえる。短文事例問題は問題73・76の2問。問題73のマズローの欲求階層説も頻出問題だ。問題76の尿閉に関しては消去法で答えを導いた人の方が多かったのではなかろうか。今回、難問と思われるのは問題69の1題のみ。うろ覚えの知識として老化プログラム説の内容が頭に入っていれば他の選択肢がわからなくても解けたであろうが、これは難問。総じて今回も頻出事項が多く、赤マル福祉の過去問を中心とした日頃の学習で6~7問は正解できたと思われる。
認知症の理解 認知症の理解においては、介護の専門家なら知識として持ち合わせたい認知症の基礎的な知識と症状の理解が多く問われていた。問題77は相手の思いを察する基本的な関わり方を、問題78、79、80は種類の異なる認知症の特徴的な症状理解がされているか否か。専門家としてはその理解のうえで現状を把握し、認知機能の評価がなされなければならない。問題81は日常の生活から認知症の人の機能を評価できる知識と術を理解しているかが問われた。問題82はメタボリックシンドロームという言葉を解答設問に設け、病気の診断基準を満たさない“予備群”や“軽症”の状態であっても、それらが重なると血管性認知症の危険因子となることが理解されているかを問い、また問題83においては日常生活の中に表れる症状への本人の不安な思いを察し親身に対応するということ、問題84においては働き盛りの若年性認知症になった人の家族の思いを考えられれば解答に導けたと思われる。問題85は地域包括ケアが進められていく中、近隣の助け合いの気持ちを持って相談できる場を理解しているかが問われている。問題86では、認知症の人の行動心理症状を考え、思いを察する。理解できない行動には必ず何らかの要因があると考え、そのうえで日々の様子観察から要因を知り気持ちに沿った支援につなげるという認知症の人の尊厳に配慮できるかが問われたと思う。今回は基本的な問題ばかりで困難な問題はなかった。
障害の理解 今回の「障害の理解」の問題数は例年と変わらず10問だった。最初の問題87は、ICFに関する出題であるが、「活動」や「参加」といった出題傾向の高い内容ではなく、「社会モデル」に関する出題に頭を抱えた受験生もいたのではないでしょうか?問題88、89では障害者福祉の基本理念である「ノーマライゼーション」や「ソーシャルインクルージョン」と続いたところも内容の出題数にやや変化がみられているように感じる。しかし、どちらも出題傾向の高い内容であるため落ち着いて考えれば解答は難しくはない。その他の出題内容は例年と大きな変化はなく、問題90の「高次脳機能障害」や問題91の「自閉症」といった出題傾向の高い内容や問題94の適応機制の「退行」についても解答しやすい問題であったといえる。問題95、96では障害者福祉に関わる職種とその業務内容の理解、事業や制度の内容の理解ができていないと難しい問題である。「障害の理解」全体の難易度としては、過去問からの出題傾向が高めの内容が多めであったことから中程度である。今後も時代に合わせて障害者福祉、医療や介護の変化が進むので、基本的な理念や制度など、きちんと理解しておく必要がある。
こころとからだの
しくみ
出題数は昨年と同様12問、うち短文事例問題が3問であった。出題内容は「こころのしくみの理解」から記憶と学習、適応機制に関する問題2問、「からだのしくみの理解」から血管系の問題1問、「身じたく、食事、入浴に関連したこころとからだしくみ」「死にゆく人のこころとからだしくみ」から各1問ずつ、「排泄に関連したこころとからだのしくみ」2問、「睡眠に関連したこころとからだのしくみ」から3問であり、「移動」に関する出題はなかった。記憶と学習、適応機制、血管系の問題は頻出問題であり、過去にも出題されている。今回の試験では疾患に関連した問題が4問と多く出題されているのが特徴といえる。全体的にみるとほとんどが基礎的知識を問うもので、受験生は得点に結びつけることができたであろう内容であった。そのなかで難易度が高い問題と感じたのは、酵素を構成する主成分を問う問題101である。受験生にとって解答に時間を要したと想像する。科目としての難易度は昨年よりやや高いといえる。学習方法について、受験後に過去問による学習が役に立たなかったという声を耳にすることがあるが、過去問により出題傾向を知り、解説を確実に理解して模擬試験、予想問題に取り組むことで基礎知識がつくと考える。介護の中核を担う介護福祉士として、医療職と連携して行くうえで確実な医学的知識を身につけてほしい。
領域IV
医療的ケア
医療的ケア 出題数は昨年と同様5問の出題であり、うち1問が短文事例問題であった。本科目は、新たに追加された領域・科目であり今回で2回目となる。出題は出題基準である大項目の「医療的ケア実施の基礎」からパルスオキシメータでの測定に関する問題が1問、「喀痰吸引(基礎的知識・実施手順)」から喀痰吸引等を行うための指示書について、喀痰吸引を必要とする利用者の生活支援について、1回の吸引でとりきれない場合の再吸引の対応に関する3問、「経管栄養(基礎的知識・実施手順)」からは栄養剤注入中の嘔吐の原因を問うもので、すべてが基礎的知識を問う内容であった。受験生の中には、問題110パルスオキシメータ(経皮的動脈血酸素飽和度)について難易度が高いと感じたかもしれない。喀痰吸引の際には利用者の健康状態を把握するうえでバイタルサインとともに呼吸状態を知る重要な項目であり、その目的と基準値はおさえておく必要がある。本科目は医療職との連携の下で医療的ケアを安全・適切に実施できるよう必要な知識・技術を習得することが求められている。介護福祉士が行える「医療的ケアの範囲」の理解と「喀痰吸引」、「経管栄養」の基礎知識と併せて実施手順をイメージできるようしておくことが得点につながると考える。
  総合問題 本科目は事例形式であり、4領域(人間と社会、介護、こころとからだのしくみ、医療的ケア)の知識・技術を横断的・総合的に問う科目である。1事例目は「脳出血後遺症があり自宅で生活する女性、72歳」の事例。脳血管疾患で生じる症状に関する知識、障害高齢者の日常生活自立度(寝たきり度)判定基準に関する知識、倒れている利用者を発見した際の対応が問われた。2事例目は「夫から虐待を受けているアルツハイマー型認知症の女性、87歳」の事例。認知症で生じる症状に関する知識、虐待による措置対応で施設入所となった場合の根拠法、認知症利用者への専門職としての排泄支援の視点が問われた。3事例目は「頸髄損傷により麻痺がある男性、64歳」の事例。頸髄損傷により生じやすい症状および対応に関する知識、頸髄損傷による感覚障害に関する知識、障害者総合支援法に基づく移動支援サービス内容に関する理解が問われた。4事例目は「交通事故により両大腿切断術を受けた男性、21歳」の事例。障害年金に関する知識、障害者が自身で自家用車を運転するにあたっての経済的負担軽減に関する制度、両大腿切断で生じる症状に関する知識が問われた。本科目は例年、65歳以上・65歳未満の利用者が各2人出題されており、この傾向は今回の国家試験でも同様であった。利用者の個別性を理解したうえで多様なニーズに応え、適切な支援が実践できるための介護福祉士の実践力が問われている。

 

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