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第31回 介護福祉士国家試験 科目別分析【午前科目】

領域 午前科目 分析
領域I
人間と社会
人間の尊厳と自立  今年度も2問の出題であった。問題1の短文事例はこれからの高齢者の思いを表すような例である。一人暮らしで、骨折等で入院の経過があるが訪問介護員の支援を受けながらも出来るだけ自分のことを行い自宅での生活を継続したいという思いのある高齢者である。さまざまな不安要因を考えたのか、訪問介護員へ一人暮らしが不安と告げた時に、訪問介護員はどのように答えるのかを問われた。現実に生活の大変さを一番身近に感じながらも、本人のライフスタイルに沿って自分らしく生活できることが重要である。自己選択、自己決定の支援を思考し返答を考えると解答できると思われた。
 問題2においてはオーストリア出身の精神科医・心理学者のヴィクトール・エミールフランクルの提唱した価値の説明が問題とされた。どんなときも人生には意味があるという、生きることの価値をフランクルは伝えている。まさに支援を必要とする人々の生き方を価値あるものとして人間の尊厳と自立を考えていかなければならない。
人間関係と
コミュニケーション
 昨年同様2問の出題となっている。問題3は、短文事例で、「一人暮らしが長かった利用者が介護老人福祉施設に入所することになり、自分から話そうとはしない利用者に対する介護福祉職の対応」に関する初期の関わり方を問う出題である。入所当日という点と、自分から話そうとしない点と、一方的な働きかけにならないようにという点を考慮すれば、解答がえられる問題である。
 問題4は、「聴覚障害のある利用者との介護福祉職との間での筆談」に関する問題である。障害を理解し、筆談するときのポイントを理解していれば解ける問題である。第30回介護福祉士国家試験では「利用者との関係を構築するためのコミュニケーションの基本」、短文事例で「介護老人保健施設でのレクリエーション活動を休むことが多くなった利用者への対応」、第29回では「自己開示」「先天的ろう者が緑内障を発症した時のコミュニケーションをとる手段」となっている。
 障害のある利用者への関わり方を問う問題は毎回出題されており今後もこの傾向は続くだろう。また、人間関係の形成に関する出題では、介護福祉職が実際の場面で具体的にとるべき行動や対応をイメージしながら学習しておくことが大切である。
社会の理解  問題数は例年通り12問出題。うち事例問題は2問であった。全般的傾向として高齢者、障害者、福祉全般の分野から、法制度、福祉的概念、専門職の役割等、満遍なく出題がなされていた。難易度としては、社会状況、業務に必要な施策、福祉運営主体の基礎的な知識を問うものであり、解きやすい内容である。
 具体的な分析として、問題5の家族機能の理解は従来の機能論にジェンダーの視点を鑑みた考察が求められよう。問題6は今後の福祉社会を意味づけるもの。
 問題7、16は介護福祉職が活躍する働き場所等の制度的理解。問題8、10では、介護の私事化の際の制度、働き方の多様化における社会保障の知識が確認された。かつ問題11、12では介護保険制度の改正という、直近の法制度の改正点が問われた。
 また障害者福祉では障害者総合支援法の改正内容が出題。しかしこれは改正前との対比の把握で、おのずと正解が導ける問題である。同じく専門職の役割は、障害者分野からの出題であったが、各専門職の基礎的な役割の理解で容易に解答できる。
 そして事例問題は、介護福祉職として制度をふまえた利用者への対応。出題意図として制度施行から、20年弱経った現在、制度理解は介護福祉職としての質の向上としての期待値の高さであると推察できる。
領域II
介護
介護の基本  出題数は昨年同様、10問。そのうち事例問題については昨年の3問から2問に減少している。今回の試験では、高齢者の健康に関する意識調査、介護福祉士の義務、認知症利用者への支援方法、ICFの構成要素と事例との照らし合わせ、定期巡回・随時対応型訪問介護看護、避難場所に関するマーク、職務上の倫理、施設の安全確保体制、介護老人福祉施設の感染症対策、燃え尽き症候群について出題された。難易度としては、昨年と同様に標準的であり、基本的な知識で解答できる問題が多かったと思われる。
 毎年出題されている社会福祉士及び介護福祉士法を始め、昨年も出題された防災対策や、地域密着型サービスに関する問題については、今回も出題されており、来年度以降も出題頻度しては高くなると思われる。今回出題はなかったが、外国人労働者に関する内容も今後出題される可能性が高いため、EPAや技能実習制度なども押さえておきたい。
 「介護の基本」は介護領域の中核を成す科目であり、介護保険制度や認知症ケア、介護職員の就労環境など他の科目でも重複して出題される内容が多いため、他科目と合わせて学ぶ必要がある。
コミュニケーション
技術
 昨年同様8問の出題となっている。「コミュニケーションの基本」から2問、「利用者の状況・状態に応じたコミュニケーション」から事例で4問、「介護記録」「報告」からはそれぞれ各1問の出題となっている。「コミュニケーションの基本」では、「逆転移」という語句が出題されているが、「転移」の意味を考えれば、解答はえられる。「傾聴」に関しても出題されており基本的な問題となっている。
 事例では、「脳梗塞で左片麻痺が残る利用者がリハビリテーションに取り組んでいるが、うまくいかないとき」の利用者への介護福祉職の共感的な応答の仕方を問う基本的な問題が出題されている。「見当識障害や記憶力低下が見られる小学校教諭を定年退職した利用者とその家族」への対応が出題されており、人間の尊厳を考えれば解答がえられる。また、更に症状が進み「こちらからの問いかけにも応えられなくなった利用者への対応」を問う問題では、コミュニケーションノートが出題されており、幅広い学習が求められる。
 「母の自宅介護を行う介護者の訴えに対する訪問介護員の対応の仕方」では、基本的な姿勢を問う出題となっている。「介護記録」では、叙述体の書き方のポイントが出題されており、叙述(順序良く述べること)の意味を考えれば解ける問題である。
 「報告」では、基本的な出題となっている。最近の傾向として、基本的な出題の他、聞きなれない語句が出題されている。実践をイメージしながら、万遍なくテキストを学習しておくことが大切である。
生活支援技術  昨年と同様に、出題数は26問であった。そのうちイラスト問題は例年通り2問、事例問題は6問に増えている。出題基準の10の大項目のうち、昨年3問の出題があった『自立に向けた睡眠の介護』が0問で、他の9項目からは満遍なく1~4問の出題となっている。
 イラスト問題35はオストメイトを示すマークで一般的に認識されてきているが、問題55は、洗濯の乾燥方法の問題で2016年12月に改正された新JIS表示からの出題で、記号の変更の確認が必要であったが、意外に見逃しやすい。
 事例問題は問題36「グループホームにおける調理支援」問題42「喘息利用者の安楽な姿勢」問題51「腹圧性尿失禁のある利用者の対応」問題54「認知症の利用者への家事支援」問題57「入所間もない利用者への介護福祉職の対応」問題60「施設で亡くなられた利用者家族に対する介護福祉職の対応」の出題で、利用者の疾病や利用者の置かれている状況の理解があれば解答できる問題であった。
 他は基本的な知識や技術の理解や高齢者が安全に暮らしていくための対策などが問われていたが、容易に正解が導き出せる問題であった。
介護過程  出題数は昨年と同様に8問。そのうち事例問題が4問含まれおり、事例問題の2問については「総合問題」のような長文事例から2問連続して解く内容のものであった。昨年に比べ事例問題の出題比率が上がっているものの出題傾向には、大きな変化はみられなかった。
 「介護過程の意義」より介護過程の目的について1問、「介護過程の展開」より情報収集の留意点、生活課題の優先順位、介護計画実施時の留意点について3問、「介護過程の実践的展開」より事例問題が4問出題されている。事例問題以外の出題は、介護過程に関する基礎理論を理解していれば容易に解答できるものであったと思われる。
 一方で「介護過程の実践的展開」からの出題は、事例を読み、利用者の身体面・精神面・社会面など多方面の視点から総合的に理解し、介護過程を活用して展開する応用力が求められるため、他の科目と共に、複合的に学んでいくことが必要である。

 

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