社会福祉士国家試験情報第33回 社会福祉士国家試験 科目別分析【専門】
科目別分析【専門科目】
社会調査の基礎
現行の社会福祉士養成カリキュラムとなった22回試験以降では、試験開始から数年は、受験生一般の平均的な学習習熟度を超えた、難易度の高い内容が出題され続けたため、午後科目の最初であることから、毎年のごとく開始後出鼻をくじかれる受験生が多かった。しかしながら26回試験以降ではその傾向が和らぎ、テキストレベルの、科目名通り「基礎」的な出題が中心となってきている。今年も社会調査一般の大切な知識を問うテーマが多く、全体としては、むしろ得点源となったのではないだろうか。
特徴的な問題を挙げるとすれば、先ずは問題84であろう。科目の最初の問題は、どの科目も比較的難易度の高い出題がされる傾向にあるが、今回の7問中の中では、相対的に難易度が高い。ただその難しさは未出題内容というだけで、問題文も短く決して難解ではない。また問題85や問題88など、本当に易しい出題も見られた。
過去3年の出題内容と比較しても、今年は明らかに易しい。問題89や90なども易しい部類の出題であり、きちんと学習を進めてきた受験生は、迷うことなく正答を選べたであろう。午後の最初で気負いしている面はあるとは思うが、問題文を落ち着いてよく読み、何を問うているのか改めて確認してから問題を解く慎重さがあれば、7問全問正解も難しくはない。
相談援助の基盤と専門職
例年、比較的得点しやすい科目の1つであり、事例問題も含めて今年もその傾向の通りであった。難問・奇問の類は一切なく、作問も出題基準の範囲の中で過去の出題実績を踏まえた内容となっており、合格レベルの受験生あれば、全問正解できるレベルの内容である。
個別の出題を見ると、問題91、94、96は、合格水準に達している知識を持った受験生であれば、容易に解答できたであろう。問題91の社会福祉士法や問題92のグローバル定義など、おなじみの出題である。なお問題92については、今更2000年定義の出題という声もあるようだが、むしろこれまでのソーシャルワークの流れを問うことができ、その比較としての出題というアプローチは良問と言える。また問題94の人物・業績も、過去の出題から全て既出のものであり、問題96の職種と根拠法も、解答は容易である。
これら既出・容易な出題の中では、問題93が全7問の中では比較して難易度が高い部類の出題となっている。しかしながら、その難しさというのは、各相談事業の定義がしっかりと捉えられているかどうかにつきる、典型的な知識問題である。合格レベルに受験生なら正答選ぶことができる。
また事例問題についても、問題95はソーシャルワークの考え方で正答の1と4を選ぶことができ、問題87は「閉じ籠りがち」と「十分な食事をとっていない」ということから、こちらも容易に正解の2と5を選ぶことができる。
相談援助の理論と方法
ほぼ例年と同様、システム理論、ソーシャルワークアプローチ、過程、援助関係、面接技法、ネットワーキング、スーパービジョン、グループワーク、記録、個人情報保護、事例と出題範囲全体を網羅する問題であった。内容も例年同様、むしろ昨年よりも平易であり、着実に得点できたのではないか。
システム理論関連は問題98~問題100と続けて3問出題され、また家族システム理論が2年続けて出題されている。ソーシャルワークアプローチと過程は各2問出題。過程を採り上げた問題111はケアマネジメントに限定された表記であり戸惑った受験生もいたかもしれないが、落ち着いて取り組めば難しい問題ではなかった。
事例問題の長文化は今年度も続いており、問題110に至っては事例前の文章だけで3行、事例も8行に及んでいる。これからの受験生は読み込んで理解するために時間を費やし過ぎない練習、また全体を通じ時間を調整する練習も原則論で消去法を繰り返す割り切りも必要になると思われる。
問題117で採り上げられたようなメゾ・マクロレベルの実践については、社会福祉士の倫理綱領の改訂や近年の社会情勢を受け、今後一層重視される必須項目となっていくであろう。
福祉サービスの組織と経営
「組織」と「経営」という観点から、まず組織については福祉サービスの提供主体である社会福祉法人について、社会福祉法の規定や、組織の特徴などについてまんべんなく出題されており、問題120の多様な主体と合わせて、今年もその傾向に変化はなかった。特に社会福祉法人については、問題124において財務管理の知識を問う出題と合わせての出題であり、近年の社会福祉法改正の内容も含めて、受験生のしっかりとした学習の成果を問う良問と言える。<br> また経営については、運営論が全体としてはよく出題されるが、今年も同様の傾向にあるものの、出題の内容としては難化したようである。特に経営系の内容は、受験生は一般的に苦手としているが、今回は問題121、122、123、125と4問の出題がなされ、選択肢の誤りについても惑わすような記述も多く、受験生は苦労したのではないだろうか。いずれも基礎理論ではあるが、各理論の特徴をしっかりと捉えていなければ、正答を選ぶのは難しいかもしれない。<br> ただ全体としては、決して点が取りにくいということはなく、出題基準の4つの大項目ごとに、今年も主要な内容がまんべんなく出題されていた。過去問をテキストや参考書をもとに繰り返し確認しながら学習した受験生は、相応の得点がとれたと思われる。
高齢者に対する支援と介護保険制度
出題内容は例年通り、高齢者白書、高齢者の福祉制度、介護支援専門員の役割、介護保険制度や給付、国民健康保険連合会の役割、介護技術についてである。全体的に難易度は低く、点数をかせぐ科目であったといえる。
介護技術を問う問題では、麻痺を有する要介護者への介護方法がよくでていたが、今年は介護予防や自立支援、地域包括支援センターの社会福祉士の視点の代わりに新たにロボット技術の介護分野への応用を問う問題であり、出題方法を変えてきた。
更に住宅改修や福祉用具に関する問題が2問、その他の問題の選択肢でも転倒予防など住環境に関連した選択肢が目立つ問題傾向となっている。
児童や家庭に対する支援と児童・家庭福祉制度
例年の問題よりも近年に制定・改正された法律の内容に踏み込んだ出題が増えており、かつその範囲も広くなっているため、子育て支援等の制度を中心に学習してきた受験生は苦労したのではないか。昨年度の問題137のように過去の海外偉人を知らなければ回答できないような難問は排されているが、全体的な難易度はやや難易度の高かった昨年度と同等と言える。
個別の問題を見ると、事例の問題138、条理から推察できる問題139、テキストレベルの知識を問われた問題142は、児童・家庭分野に関わりのない受験生でも消去法だけで正解に辿り着けたのではないか。但し、事例であってもいわゆるDV防止法における通報(努力義務)と児童虐待防止法における通告(義務)の違いを認識していないと最後で間違える可能性があった。
また、問題136・問題137は日常的な報道に興味を持って接していれば正解を導ける。教科書的な知識や出題範囲を絞れない統計問題とは異なる、新しい出題傾向かもしれない。
就労支援サービス
出題数4問という制約の中で、なかなか出題基準の内容を踏まえて万遍なく作問するのは難しい本科目であるが、4問全体のバランスを考えると今年の作問も、「就労支援」という学習習熟度をはかる問題としては、良い問題が揃っているのではないだろうか。もともとこの科目と密接にかかわっている、「低所得者に対する支援と生活保護制度」と「障害者に対する支援と障害者自立支援制度」の補完的な位置づけのような出題傾向となっており、事例問題も含めて、考えられた出題となっていた。
個別の出題としては、問題143について、選択肢1のフレキシキュリティで驚いた受験生もいたかもしれないが、既に27回の現代社会と福祉で出題済である。また問題145については、定番の障害者雇用促進法からの出題である。なお不正解の2を正答とした受験生については、猛省してもらいたい。選択肢2の問題文の内容は、納付金に対する企業の誤った認識として広まっているものである。
最後に余談ではあるが、就労支援サービスについては、第37回からの新カリキュラムによる試験において、「高齢者福祉」「障害者福祉」「貧困に対する支援」に内包され、独立した試験科目ではなくなる。このため今後の統合の流れを見据えれば、問題数が4問と少数ではあるが、あと残り3回の現行試験においては、この3分野を意識した出題になるのではないだろうか。
更生保護制度
過去の出題を見ると、例年「更生保護制度の概要」と「更生保護制度の担い手」からの出題が圧倒的に多く、特に保護観察及び保護観察官と保護司は、出題が定番化しているので、その意味では今年もその傾向は踏襲されていたと言えるだろう。ただ今年の出題については、独立した1問として医療観察法が問われ、また事例問題については、例年は法の条文通りの基本的な事項が問われているような中、今年は手続き面における運用の内容まで出題されており、全体との傾向としては、難化しており、試験問題の最後ということで疲弊した受験生にとっては、最後で難渋したようである。
個別の出題としては、まず問題148であろう。選択肢1で不良行為少年の用語が出てくるのは、本試験で初である。また選択肢5を正答とした受験生もそれなりに多いようであるが、検察官送致は保護処分ではない。また問題149の医療観察法の出題も、精神保健福祉士の専門科目の出題としてなら易しいが、社会福祉士試験としては、難易度は高い方でないだろうか。
更生保護制度については、第37回からの新カリキュラムによる試験において、「刑事司法と福祉」という科目で、引き続き独立した科目として存続する(養成カリキュラムの時間数も拡充となる)。精神保健福祉士との共通科目に位置付けられるなど、今後もその重要性が増してくる科目の一つであることから、今年の試験のように従来の条文通りのような平易な出題から、あと3回の現行の試験においても、実践的な出題が増えてくることが予想される。