社会福祉士国家試験情報第33回 社会福祉士国家試験 科目別分析【共通】
科目別分析【共通科目】
人体の構造と機能及び疾病
午前の共通科目第一番目の科目である人体の構造と機能及び疾病であるが、今回の設問は現代の医療分野におけるテーマが散りばめられている印象がある。
まず、問題1~3については、過去問を取り組んだ受験者にとっては回答しやすい内容であり、基礎的な学習の必要性を改めて痛感させられた。
続いて問題4、5については特に医療機関で活動する社会福祉士にとって日常的に求められる知識であり、机上の受験対策に加えて実際の相談現場の情報を収集することの必要性を感じた問題であった。
また、問題6の精神疾患の診断・統計マニュアル(DSM-5)及び問題7のリハビリテーションについても最近は数回にわたり設問されていることから、近年医療・福祉現場において注目されている内容であることが理解できるため、過去問の取り組みと共に近年の動向を同時に理解している受験者にとっては良い形でスタートできたのではないかと思われる。
心理学理論と心理的支援
新カリキュラムとなった22回試験以降で見ると、本科目については年々出題基準に沿ってバランスよく、そして試験の標準的な難易度の出題がなされるようになってきている。心理学の基礎知識が習得できていいる受験生は、難問・奇問のたぐいもないことから、他の科目と比較しても、全体的として正答を導きやすかったのではないだろうか。
問題の傾向としては、今年は出題頻度の高い「学習」がなかったが、「動機(欲求)」「記憶」などの必須テーマに加え、「心理検査」は31回以来だが毎回出題の「心理療法」など、対人援助職である社会福祉士にとって必要な、人間の心理的側面に関する理解や心理的援助技術が身についているか問う、良問揃いであった。
特徴的な問題をあげれば、先ずは問題11であろう。DSM-5になってからの名称の出題は初めてであり、障害名に慣れていない受験生は戸惑うかもしれないが、出題の内容そのものは従来の発達障害の問と変わらない。また問題12では心的外傷後ストレス障害(PTSD)が問われているが、症状までしっかり理解しているか問う、トピックな問題の1つと言える。
社会理論と社会システム
科目に取り組んで最初の問題15の選択肢中にこの科目では見かけない国際比較があり、戸惑った受験生も多いのではないか。少子化対策に早くから重点を置いていたフランスやスウェーデンの合計特殊出生率が2に近いこと、韓国のそれが先進国中最も低く1に近いこと(2019年には1を下回っている事)を知っていれば最初から選択肢を除外できるが、それを知らなくとも頻出範囲である国内の人口統計及びその内の1.57ショックや最低値(2005年の1.26)といったトピックが理解できていれば正解にたどり着けたと思われる。
それ以降の問題は、都市化、社会集団、生活の捉え方、社会的役割、社会的ジレンマ、アノミー論と、まさにオーソドックスな基本事項からの出題であり、内容も例年と比較しても平易であったと言える。テキストや過去問を理解し合格レベルに達している受験生にとっては、落ち着いて取り組めば得点源にできたであろう。
現代社会と福祉
例年難問が多い科目の1つであり、その特徴として現代社会の動向や福祉的課題に対するテーマから出題がなされるが、この分野での得点が難しく、ここで毎年受験生間の差がでるものと思われる。今年の出題については、問題24、29、31などであろう。またメインの福祉政策分野以外では、他科目の内容も含めた横断的な学習が求められることもあり、例えば問題23は「高齢者」、問題25は「低所得」、問27は「社会保障」などで出題されてもおかしくない内容である。やはりこの科目の学習については、出題基準に示されている内容の通り福祉政策を中心に据え、制度・政策を個別に理解するのではなく、時系列で発展過程の流れを理解した上で、各項目を相互に関連付けながら多面的に把握するという努力が必要であろう。
出題の特徴としては、近年は受験生が苦手とする「理論と哲学」からの出題がなかった。逆に近年連続で出題されているのが、問題24の国連がらみの内容や、問題31の労働政策分野からの出題である。特に問題24は、人間開発報告書そのものは第26回試験で出題されているが、SDGsについては、昨年からの連続である。また問題31は働き方改革関連法として旧雇用対策法の改正が出題されており、昨年の一億総活躍プランからの流れともいえる。単なる年号や人物の暗記だけでは解けず、まさに「現代社会」ということを意識した出題であったと言えるのではないだろうか。
地域福祉の理論と方法
出題内容が毎年決まっているのがこの科目の特徴であり、社会福祉法、民生委員、地域福祉に関する報告書、住民主体の資源開発といった内容が今回も出題された。全体的には標準的な難易度。
この科目の選択肢は明らかに違うと直感で消せる選択肢がある問題が多いのも特徴だが、問題37の生活課題に対する支援の施策を問う問題、問題38の地域における公益的な取り組み内容を問う問題、問題40の地域福祉の人材に関する問題は、勉強しなければどれもが正しく思えてしまう選択肢なので、消去法で正解を導き出すのは難しい問題。
全体を通して、「地域福祉の担い手の育成」、「社会福祉法人や企業による公益的な取り組み」、「住民主体の支えあい活動」といった、国や自治体が力をいれている話題が試験問題に反映されており、良問であったことと、今後もこの出題傾向が続くのではないか?と考えさせられた内容であった。
福祉行財政と福祉計画
科目名の通り、今年も「行政(福祉行政の実施体制)」「財政(福祉行財政の動向)」「福祉計画(主体と方法及び計画の実際)」の3分野から、出題基準に沿ってバランスよく出題されていた。この科目については、もともと出題範囲が他の科目に比べて少ないことに加えて、第37回試験からの新カリキュラムによる試験では独立した科目ではなくなることから、過去の出題の傾向と相まって、あと残り3回の試験でも同様の傾向になると思われる。
個別の出題を見ると、問題42は定番の行政の役割として、今回は都道府県であった。比較とする行政は、後は国と市町村となるので、どこの役割かわかれば解答は容易である。問43は内容そのものは易しいのだが、負担金と補助金で正否を問う出題は初めてである。ここで迷った受験生は多かったのではないだろうか。問題44も定番化した出題形式である。都道府県が義務設置の機関とわかれば易しい。問題44は、この科目の定番の出題である。本当に易しい。問題46はこれも定番となっている地方財政白書からの出題である。過去の出題実績からでも正答が導ける。問題47は他の出題に比べると難しいかもしれないが、「市町村」の「介護保険事業計画」という位置づけがわかれば、もし条文を知らなくても正答の3が選べるのではないだろうか。問題47は本調査結果からの出題は他科目を含めて過去にあるが、この内容の出題は初めてである。ただ合格レベルに達している受験生であれば、内容から正答を推測できる。
社会保障
社会保険制度が出題の中心になっているのは、この科目の毎回の特徴であり、事例問題2問という出題の傾向も含めて、今回もその傾向は踏襲されていた。問題構成も、人口推計、医療保険または社会保険、労働者災害補償保険、年金が出題され、年度によって給付対象を障害者か?児童か?遺族か?変えて出題する傾向通りであった。
問題50は厚生労働白書からの問題だが、中身は社会保障の機能や目的を問う問題であり、統計の数字がでるだろうと考えていた学生には難しかった印象。医療保険や労働者災害補償保険は基本的な内容を問う問題。問題53の障害児者の現金給付の併給や問題54の社会保障等の給付に関する事例問題は、制度に対する知識は身につけていても「重複して併給できるか否か?」まで掘り下げて勉強していなければ選択肢が選べず難しい問題であった。
今回は試験問題に、財源に関する問題が無かったが、社会保障に対する財源は重要な課題なので、試験問題として出てほしかったという思いはある。全体的には標準的な難易度であった。
障害者に対する支援と障害者自立支援制度
障害者総合支援法を中心に、今年も障害者関連の法規や統計など、障害全般にわたる例年通りの出題であった。その点では、しっかりとした学習を続けてきた受験生は、今年も相応の得点をとれたのではないだろうか。この科目については、安定した出題傾向が続いている。
特徴的な出題としては、先ず問題56の「生活のしづらさなどに関する調査」であろう。31回試験でも出題されており、旧実態調査の頃からも出題されているが、「社会福祉施設等調査」と合わせて出題されたことで、戸惑った受験生もいたかもしれない。ただ実態に対する知識が相応にあれば、解答は類推できる。
また問題58の選択肢2や、問題61の内容は精神保健福祉士の専門科目から見れば、明らかに易しい内容である。これらの知識は確かに社会福祉士としても必要なことではあると思うが、共通科目という正確を考えれば、特に問題58の選択肢2が正答となっていることも、疑問が残るところであった。
障害者総合支援法は必ず出題されるが、独立した出題としては問題59のみであった。問題56の選択肢2も、問題60も事例ながら支援法の出題と言えるが、例年から見れば出題数が減ったと言える。
低所得者に対する支援と生活保護制度
今年も全体としては例年通り、生活保護法中心の標準的な問題であった。生活保護法の原理・原則、福祉事務所の組織及び運営基準などはほぼ毎年出題されており、問題64及び問題68など、内容としては本当に易しい。事例問題としての支援の手続についても、問題65の出題の通り、定番化しているといえる。また問題63の生活保護の動向も、連続として出題されており、内容としても易しい。
なお従来は生活保護法からの出題が大部分を占めていたが、近年では、生活困窮者自立支援法を中心に、生活保護に至る手前の段階のセーフティネットに関する出題が増えているのが特徴である。今年は生活困窮者自立支援法からの出題はなったが、変わりに問題69で、久しぶりに生活福祉資金からの出題がなされた。昨年からのコロナ禍により、特例貸付として緊急小口資金が注目されたこともあり、出題が予想された通りとなった。
全体としては、問題67が相対的に難しかったが、他は一通りのテキストレベルの学習を終え過去問をこなしてきた受験生であれば、残りは全問正解できる。問題66の不服申立の出題も、行政不服審査法の改正後の内容もなく、過去の出題実績から正答は容易である。
保健医療サービス
今回の出題は、近年の頻出項目から出題をされているが、国民医療費の概要や診療報酬に関連する出題はなかった。その代わりに、最近は医師・看護師等の他職種に関して理解を問う設問が増えていることは相談現場における連携の重要性に注目することが必要と思われる。
まず、問題70、71については医療保険制度の仕組みについて正確な理解が重要とされると共に、問題72、73のがん対策やアドバンス・ケア・プランニング(ACP)及び医療法についても確実におさえておく必要があると思われる。
また、問題74、75の医師資格や訪問看護ステーションの設問は、連携相手を理解することに焦点が当てられている。最後の事例問題については、高次脳機能障害の理解に増して、医療ソーシャルワーカーの役割と福祉制度全般に言及した内容であるため、今後もこの科目の重要項目であることがわかる。
権利擁護と成年後見制度
今年の印象は、「問題内容をほぼ一新してきた」である。毎年の傾向である民法、行政法、事例問題で消費者契約法に関して、成年後見制度の概況といった、いつもの出題傾向ではあるが、問題77の財産権の制限、問題78の債務保証は民法改正の内容も入れた問題、遺言と任意後見契約は、過去問でもほとんど出てこなかったため、今年こそ出るか?と予想していた学生も多いと思うが、今年度にまとめて出た。
問題81は成年後見人等に付与される権限を問うものであった。問題自体は決して難しい問題ではないが、例年通りの問題を予想してきた学生にとって、午前中最後の科目で疲れているところには難しく感じたのではないか。全体を通しては、マンネリ化の脱却をした良問であったと思う。