社会福祉士国家試験情報第36回 社会福祉士国家試験 科目別分析【共通】
科目別分析【共通科目】
人体の構造と機能及び疾病
本科目は午前の共通科目第一番目の科目であるが、今回も設問が広範囲にわたるものの基礎的な出題が多く、受験対策のテキストで学習を積んできた受験者にとっては解答しやすい問題であったと思われる。
問題1の成長・発達に関するスキャモンの発育曲線については、各テキストでも図で紹介しているので目にしたことはあると思うが、各曲線の特徴を正確に理解しておくことが求められる。問題2のICFについては過去にも繰り返し出題されているが、今回も事例を通じた内容の理解が求められた。問題3の障害種別については近年増加する内部障害の設問であり予想できる問題であった。問題4の目の構造と病気について感覚器はテキストでも身体構造の後半にある内容なので想定しにくい設問であった。問題5の自閉スペクトラム症と問題6のDSM-5の問題は、発達障害についての基礎的な設問であったため、過去問を参考に予想した受験者は解答しやすかったと思われる。最後に問題7の廃用症候群については、その原因と特徴の他に老年症候群との違いを理解している受験者にとっては正解につながる内容であると思われ、この問題を通じても各テキストの内容を熟読しておく必要性を強く感じた
分析: 一般社団法人 千葉県社会福祉士会
心理学理論と心理的支援
全体的に基礎的な知識を問う問題がほとんどであり、基本的な項目を押さえてあれば正答を導き出せるような問題がほとんどであった。公表されている試験科目別出題基準の大項目に照らし合わせてみると、例年になく出題分野の偏りが見られ、全7問中4問が「人の心理学的理解」からの出題であった。一方でここ数年1問から2問出題されていた「人の成長・発達と心理」からの出題は皆無であった。
問題8は知覚の「大きさの恒常性」に関する出題であり、選択肢をよく読めば正答を導き出せる出題である。問題9はオペラント条件付けについての基礎的な出題であった。問題10は記憶の分類に関する出題であり、一通り押さえておけば確実に解ける問題である。問題11は動機づけの中の「原因帰属」についての出題である。内的や外的の概念を押さえてあれば正答は導き出せたと思われる。問題12は心的外傷後ストレス障害の「回避」症状を問うものであり、回避の意味をよく考えれば正答できたと思われる。問題13は心理検査について、問題14は心理療法についての基礎的な内容理解を問う問題であった。全体的には単なる暗記ではなく、実践現場を想像しながら学ぶ姿勢が重要であると思われる。
分析: 一般社団法人 千葉県社会福祉士会
社会理論と社会システム
『社会理論と社会システム』は出題傾向が一定しており、理論や主要人物の名前さえ覚えていれば解答しやすい試験である。今年も例年通り、過去問やテキストの内容から十分に対策が立てられる問題が多く見られた。具体的には、問題16「コミュニティ解放論」、問題17「社会システムの問い」、問題19「ライフサイクル」、問題21「社会的ジレンマ」などは、過去の傾向に沿った内容で、基本的な知識があれば正解を導きやすいものである。問題18の統計についても、統計学そのものの知識がなくても、国勢調査や各種白書、報道などから人口や世帯構成に関する社会問題を把握していれば、推論で正解に辿り着くこともできたであろう。全体的に難問や奇問は出題されず、過去の出題傾向と同様に、主要な研究者とその理論のキーワードをセットで記憶すること、家族や世帯構成、社会的行動・役割・ジレンマ、社会問題に関する理論を理解しておくことが重要である。さらに、日々変化する社会情勢や人口動態にも関心を持ち、最新の情報を常に取り入れることで知識をアップデートすれば、高得点も狙える科目と言えるだろう。
分析: 一般社団法人 千葉県社会福祉士会
現代社会と福祉
全体的に難問奇問などはなく、基本的なことを押さえておけば正解を導き出せる問題がほとんどであるが、中には細かい知識を問う問題もあった。社会福祉士として実践を行う上で知っておかなければならない現代社会の特徴についての出題もあり、良問が多かったと思われる。試験科目別出題基準の大項目から満遍なく出題されており、試験対策としては科目全体を通して学ぶ必要であろう。
設問ごとに見ると、問題25「ブラッドショーのニード論」や問題28「エスピンーアンデルセンの福祉レジーム論」など頻出の出題もあり、一通り学んでおけば正答を導き出せたと思われる。問題22は福祉多元主義の中の政府と民間の役割について問う問題であり、「平行棒理論」「繰り出し梯子理論」などの理解を問われている。また問題29は所得の再分配における「垂直的な所得再分配」「水平的な所得再分配」など若干踏み込んだ内容が見られている。この2問は受験生も多少戸惑ったのではないかと思われる。さらに問27の共生社会の実現に関する設問や、問題24の貧困に関する問題、問題26の2025問題など、現代日本の福祉課題についての出題も多く見られ、普段から福祉施策などに注意を払う必要性も感じた。
分析: 一般社団法人 千葉県社会福祉士会
地域福祉の理論と方法
地域福祉の理論と方法は、毎年出題傾向が定まっており、中難易度の問題が多いことで有名な難関試験である。今年度も例年同様の出題傾向だった。社会福祉協議会、社会福祉法、共同体福祉計画、地域福祉財源といった定番の出題分野が例年通りあったが、細部まで問う難問が多く、知識の深さが求められた。地域共生社会や重層的支援体制整備事業など、近年注目されている地域福祉のトレンドに関する問題は、多くの受験者が対策していたため、解答しやすかったのではないだろうか。事例問題は4問出題され、生活困窮者自立支援、地域福祉計画のニーズ把握、地域共生社会推進(孤独防止)など、いずれも近年の社会問題を反映した内容だった。消去法で答えを絞り込むこともできたため、比較的易しい問題だったと感じられた。孤立・引きこもり・8050問題など、近年の社会課題を扱った設問も含まれており、全問正解するにはやはり詳細な知識が必要であり、難易度はやや高めであった。全体を通して、問題文は支援者の視点から、「地域住民とどのように地域ケアシステムを構築するか?」という問いかけで構成されており、質の高い良問だったという印象である。
分析: 一般社団法人 千葉県社会福祉士会
福祉行財政と福祉計画
主に問題42と問題48の『福祉計画等』に関することと、問題44の『地方団体の事務に関する内容』などは、受験生の多くが予測していたのではないだろうか。問題45の『地方財政白書(総務省)』の民生費部分は今回も出題しており、この部分は福祉行政と福祉計画の科目では欠かせない出題の一つとなっているものと思われる。問題43の『入所の仕組み』では利用契約制度と措置制度の違いをしっかり理解していなければ、解くことは難しかったと言える。問題47の『計画期間3年を1期』とする出題は他の科目と併用して計画を学んでいれば解ける問題といえるが、、選択に悩まれた受験生が多かったと思われる。ただ、全体的には過去の出題とそれほど変化はなく、問題46の『社会福祉に係る法定の機関』については過去に出題されており、地方公共団体の事務や行政機関の役割、それに福祉関連の計画をしっかり学習し、整理していれば解ける問題は多かったと推察する。
分析: 一般社団法人 千葉県社会福祉士会
社会保障
問題49の『国立社会保障・人口問題研究所の人口推計』と問題51の『社会保障の負担』については、しっかり学習していれば解ける問題であった。問題50の『出産・育児に係る社会保障の給付等』については、社会保障分野で出題されるとは予想していなかった受験生が多かったのではないだろうか。子どもに関する問題は、少子高齢化社会において意識を向けなければならない内容でもあり、最近の社会情勢を学んでいた受験生であれば解けたと思われる。問題52の事例『社会保障給付』は一連の流れを理解する必要があった。問題54の事例『障害者の所得保障制度』については、制度を熟知している上で、オートバイの運転状況、年齢、障害手帳の内容をしっかり確認することで解ける問題であった。全体的な傾向としては、これまで毎年出題されていた『日本の医療保険や介護保険などの社会保障の歴史的展望』に関する問題が出題されなかった。事例問題は1問から2問に増えるなど若干の変化はあったが、問題53の『労働保険』の雇用関連や問題55の『老齢基礎年金』などの高齢者に関する問題など、基本的な社会保障に加え、子供や障害者に関する問題も出題されバランスの取れた傾向だったと言える。
分析: 一般社団法人 千葉県社会福祉士会
障害者に対する支援と障害者自立支援制度
7問のうち、2問が事例問題、適切なものや正しいものを1つ選ぶ問題が6問、適切なものを2つ選ぶ問題が1問出題された。問56は、「障害者等の法律上の定義」に関する問題であり、法律における障害者の定義についての基本的な内容であった。問57は、「障害者福祉制度の発展過程」の問題であり、自立支援法における応能負担・応益負担についても出題された。また、精神保健における保護者制度の廃止など、過去に出題された内容が改変され、出題されていた。問58は、「指定特定相談支援事業所の相談支援専門員の役割」に関する問題であり、他の専門職との職務内容の違いについて理解しておくことが必要であろう。問59は、「障害者総合支援法における自立支援医療」に関する問題であり、基本的な内容だが、自立支援医療を利用する場合の医療機関の選択についても出題されていた。問60は、事例問題であり、「相談支援専門員」の精神障害者に対する就労支援について問う問題であった。同様の設問について、昨年の第35回、国家試験でも出題されているが、今回はサービスの基本的な内容を理解していれば解ける基本的な問題であった。 問61は、「障害者総合支援法」における障害支援区分に関する初歩的な問題であった。問62は、事例問題であり、「相談支援専門員」の知的障害者に対する就労支援について問う問題であった。以上の出題内容から、第36回試験は難易度が低く、過去問を何度も繰り返し解き、理解すれば対応できる問題であり、障害者総合支援法の内容や、相談支援専門員について問う問題が多く出題されていた。
分析: 一般社団法人 千葉県社会福祉士会
低所得者に対する支援と生活保護制度
今回は、ここ数年の傾向と違い事例問題が3問出題されている。内容は、生活保護制度から5問、生活福祉資金貸付制度から1問(事例)、ホームレスの実態にかかる全国調査から1問という構成であった。難易度も、例年に比べ上がっており、「読めば解ける」問題が少なく感じたのではないだろうか。とは言え、問63~65については、生活保護制度の基本となる内容で、確実に取っておきたい問題である。問66については、選択肢の読み込みが必要だが、落ち着いて取り組めば答えは導き出せる。問68については、サービスとその提供機関との組み合わせを理解していれば答えられるだろう。問67の事例問題は、選択肢を一読して明らかな間違いと判別できるものが少なく迷わせるが、よく読めば解ける問題である。問69が、今回一番悩んだ受験生が多かった設問ではないだろうか。2つの全国調査の分析結果を読み込んでいれば答えは明らかだが、新聞などを読んでいて得られる印象で答えようとすると、いくつかの選択肢で迷うこととなる。今回の試験では、選択肢の読解力が求められた。試験時の緊張状態でも、落ち着いて問題に向き合うトレーニングを日頃から重ねておきたい。
分析: 一般社団法人 千葉県社会福祉士会
保健医療サービス
今回の出題も、医療ソーシャルワーカーに求められる基礎知識を問う設問で、各種制度の理解に加えて事例を通じて実践的な内容に関する設問になっていた。
まず、問題70は公的医療保険制度の仕組みについての理解を問う問題であるが、制度の内容を詳細に理解しておくことで解答できる設問であり、問題71は繰り返し設問される国民医療費も令和2年度の概要について過去問を参考に確認した受験生は迷わず解答できたと思われる。
また、問題72の診療報酬については、診療報酬に関するポイントとしての基本的な問題が出題され、問題73の医療計画の特徴や問題74の訪問看護に関しても在宅療養の重要性や多職種連携の必要性についての知識が問われていることが理解できた。
続いて問題75の事例問題については各制度の特徴と対象について問われており、医療制度の理解が不十分な受験生にとっては難易度の高い設問であったと思われる。
最後に問題76についても、医療ソーシャルワーカーに求められる知識に関する設問であり、近年の医療の動向と結びつける知識に関する基本的な問題について正確に理解しておくことが求められた
分析: 一般社団法人 千葉県社会福祉士会
権利擁護と成年後見制度
来年度から科目名が「権利擁護を支える法制度」に変わるため、権利擁護問題が増えるのではと予想されたが、例年通り権利擁護3問、成年後見制度4問という配分であった。しかし、憲法の社会権、民法の相続など、権利擁護の基本となる分野からの出題は引き続き重要であろう。特に民法に関しては、非嫡出子の相続分に関する改正からの出題があったので、法改正への注意が必要である。また、限られた時間の中で相続人ごとの相続分を法定相続情報一覧図で示す練習も欠かせないと言える。成年後見制度は細かいルールを問う問題もあったが、基本的な理解があれば正答できるものが多かった。最高裁判所の「成年後見事件の概況」は毎年出題されているので、最新の統計データをしっかり覚えておく必要がある。また、「意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドライン」のポイントや、成年後見制度利用促進法、障害者権利条約など新しい分野からの出題もみられた。これらは権利擁護の観点からも把握しておくべき分野である。なお、この科目は法制度を学ぶ科目なので、日頃から根拠となる条文を確認する学習習慣を身に付けておくと有利であろう。
分析: 一般社団法人 千葉県社会福祉士会