社会福祉士国家試験情報第32回 社会福祉士国家試験 科目別分析【共通】
科目別分析【共通科目】
人体の構造と機能及び疾病
午前の共通科目第一番目の科目である人体の構造と機能及び疾病であるが、基礎的な学習を積んだ受験生にとっては平易な出題であり、良いペースで解答開始ができたのではないであろうか。事例を含む7問の出題は、事例が1問、2つ選択が1問、適切なものの選択が4問という出題の組み合わせである。出題内容としては、高齢者の脱水やアルマ・アタ宣言、脳血管性認知症という旧カリキュラムを含む過去31回の試験でも続けて出題されている項目からの出題であった。問題1、問題2は、それぞれ人体の構造と機能、消化器の構造と当科目名にもある、人体の構造と機能を丁寧に学習することで正答に近づくことができる問題であった。また、問題4の事例の内容は、国際生活機能分類(ICF)に基づいて事例を分類するという応用の出題であり、重要項目である国際生活機能分類(ICF)を言葉の暗記ではなく理解を求められている為、正答の絞り込みに窮した受験生も一定数いたのではないか。
心理学理論と心理的支援
適切なものの選択が4問、最も適切なものの選択が2問出題され、正答選択をする際に2つに絞り込みながら、絞り込んだ選択に迷いやすくなる問題構成であった。一方で、5つの選択肢の内容は消去法で絞り込みできる程度の難易度であるため、難解といえる出題はなかったように感じる。出題の内容をみると、問題8の馴化の問いについては、「馴れる」という漢字からでも意味がわかるもので、平易な出題である。問題10の愛着理論についてもこの科目の入門的な項目からの出題であった。問題12、問題13ともストレスに関連する出題があり、一般的にも理解しやすい項目であることから、正答できた受験生が多いのではないか。また、問題14の心理療法についての問題は、頻出の出題項目であり毎年どの心理療法が出題されるのか、傾向を分析して臨んだ受験生もいるかと思うが、今回は心理療法の基礎的な内容をそれぞれ選択肢に並べた出題であった。
社会理論と社会システム
最も適切なものを選択する問題が4問出題され、前回試験の最も適切なもの選択問題が5問とほぼ同じような構成での出題構成であった。また、出題の難易度としては基礎的な項目からの出題であり、問題そのものの構成も素直な問題作成になっており、知識を問われている出題の傾向であった。近年の傾向で人名出題が減少していたが、問題15のウェーバーの合法的支配について、問題19のパーソンズの社会的行為論が出題され、今後も人名と理論がこの科目の重要項目であることがわかる。また、統計からの出題もあり、問題16の「平成30年労働力調査年報」(総務省)による過去5年間の失業等の動向に関する出題であったが、正しいもの1つ選択であり、統計そのもののデータを把握していない場合でも正答できた受験生が多いのではないか。問題17のコンパクトシティの出題、問題20の囚人のジレンマについての出題ともに、学習の中で理解しやすく記憶に定着しやすい項目故に、自身を持って解答できた受験生が多かったのではないか。
現代社会と福祉
社会福祉全体の考え方や仕組みの理解を求める基礎科目として、28回試験以降からの特徴である「福祉政策の課題」を中心に、理論、歴史、近年の動向など、今年も出題基準に沿って一通りの出題がなされた。難易度としては例年並みだが、今年は特に近年の動向からの出題が多く、過去の出題だけでなく、日頃から福祉に対する情報収集を怠らなかった受験生との間で、正答に差が出たと思われる。 出題の特徴としては、近年の動向と言って良い、問題23、27、28、29、30、31が挙げられる。このグループの出題の多さは、問題全体を見た場合に出題の偏りが出るという点ではマイナスだが、個々の出題内容は適切である。特に28、29、31などは予想問題などで出題が十分見込まれていた。ただその反面、問題26は明らかに悪問である。正答は1であるが、選択肢4を選んだ受験生が多かったのではないだろうか。年齢で誤りとするような姑息なことをせず、しっかりとした学習を続けてきた受験生の努力に報いる出題をのぞみみたいものである。また問題24の木田徹郎は、試験問題が公開された第3回以降、初の出題である。
地域福祉の理論と方法
中項目の出題傾向が例年決まっており、個々の問題の難易度が高めな『地域福祉の理論と方法』だが、今年に関しては難度の高い問題と低い問題のメリハリが濃く出た出題内容であったと感じた。意表をついたのは、問題35ボランティアで、例年は災害支援に関連した事例問題の傾向だが、今年は根拠法令を問う出題。問題41の評価方法だが、例年通りであれば第三者評価を出題していたが、アウトカム評価は直近5年でも出題されず、戸惑った受験生も多いだろう。全問を通して、認知症に関連した設問が出なかったことも意外である。ここ数年は「制度の概要を問うもの」ではなく、「地域住民とどのようにケアシステムを構築するか?」といった支援者視点で問題構成されていたが、今年度は全体的に「制度の概要を問うもの」で構成され、定義や言葉を知らなければ正答を導き出せず、点数は受験生個々人で相応の差が付いたと思われる。
福祉行財政と福祉計画
科目名の通り、今年も「行政(福祉行政の実施体制)」「財政(福祉行財政の動向)」「福祉計画(主体と方法及び計画の実際)」の3分野から、出題基準に沿ってバランスよく出題されていた。 個別の出題を見ると、問題42は売防法改正による指定都市の婦人相談所任意設置がわかれば容易である。問43は一見難しそうだが、生活保護法の国負担が4分の3と気づけば、選択肢1を選べる。問題44は、この科目の定番の出題である。ぜひ正解がほしい。問題45で、当初悩んだ受験生も多かったのではと思うが、子ども・子育ては政府として総合的に取組を進めるという視点から、何とか正解を選んでほしいところである。その点では選択肢2で悩んだ受験生も多かったのではないだろうか。問題46は、もし条文を知らなくても、介護保険料の3年ごとの財政検証という視点から、選択肢2が選べよう。問題47は明らかに易しい出題である。問題48も、合格レベルに達している受験生にとっては易しい出題である。
社会保障
社会保険制度が出題の中心になっているのは、この科目の毎回の特徴であり、事例問題2問という出題の傾向も含めて、今回もその傾向は踏襲されていた。その出題の傾向はわかるものの、社会保険制度の体系や具体的な手続き内容についてまで問われることが多いため、苦手意識とあいまって例年受験生が苦労する科目の1つであり、今回も全体的には難度は高めの出題であった。内容としてはまず1問目の問題49で日本の社会保障制度の歴史的展開を問い、問題50は統計問題では、社会保障の科目ではおなじみの社会保障費用統計について、他は社会保障制度の取り扱い、年金、事例が2問と、例年通り定番の出題はあるものの、事例問題の2つは相応の難しさがあり、今年もこの科目については、受験生を悩ます出題であった。
障害者に対する支援と障害者自立支援制度
障害者総合支援法を中心に、今年も障害者関連の法規や統計など、障害全般にわたる例年通りの出題であった。その点では、しっかりとした学習を続けてきた受験生は、相応の得点をとれたのではと思われる。 特徴的な出題としては、先ず問題62の医療観察法があげられよう。この科目での出題は意外であった。確かに第27回の試験では精神障害者の入院対応の事例が出題されているが。ただ午後科目の更生保護制度で医療観察法の出題がないので、このような傾向は今後も続くのかもしれない。 問題58及び59では、障害者総合支援法から出題がなされている。今年は2問ということで、例年より出題数が減った。内容としては、実務を踏まえた良問といえる。 問題60の発達障害者支援法や、問題61の障害者基本法では、それぞれ正解を問題60では選択肢3、問題61では選択肢5と、ぜひおさえておくべき重要事項を選ばせており、出題者の良心がうかがえる。
低所得者に対する支援と生活保護制度
事例問題2問を含む出題であり、出題の傾向としては生活保護制度の基礎的内容を丁寧に学習することを求め、基本的な原理・原則を基にして、給付の内容や支援の方法を問う問題の構成であった。全体的に難解問題はなく平易な出題であったが、事例が2問含まれている為、事例で正答に近づくことができたかによって、解答する側の出来不出来が変わってくると言える。問題63は2000年度以降の生活保護の全国動向に関する出題であるが、選択肢を丁寧に確認していけば、正答を導き出せるが、短文と長文の選択肢を組み合わせてあり、長文を選択して正答を見落としてしまった受験生もいるのではないか。問題66と問題68は事例問題であったが、問題66が福祉事務所の生活保護現業員について、問題67福祉事務所の生活保護現業員による保護申請時の説明についての主題であり、比較的平易な内容ながらも設問を丁寧に読み理解することが求められ、慌てずに解答することが重要になる出題内容であった。
保健医療サービス
事例問題2問を含む出題で、全般的には近年の頻出項目から出題をされているが、毎年出題される国民医療費の概要からの出題がなく、頻回に出題されている診療報酬に関連する出題もなかった。その代わりに、問題70の医療費の自己負担限度額についての出題、問題71の医療施設等の利用目的に関する出題があり、問題71については介護医療院の対象や役割についての理解を求められている為、過去問題での学習+アルファの学習が求められた。また、毎年出題される医療専門職については、問題73で「地域における保健師の保健活動に関する指針」から出題され、さらに問題74においては、訪問リハビリテーションを行う際の理学療法士の業務について出題され、理学療法士に関する出題は5回連続の出題となった。問題75の事例は医療ソーシャルワーカーによる終末期の意思決定支援に関する出題で、前回試験のアドバンス・ケア・プランニング(ACP)の出題に続いての出題であるため、意思決定支援、アドバンス・ケア・プランニング等が今後もこの科目の重要項目であることがわかる。
権利擁護と成年後見制度
今年の特徴は、ここ数年、地域福祉の科目から出題されていた日常生活自立支援事業が事例問題で出題されたこと、成年後見制度利用促進法の出題である。例年出題されていた確実に得点を狙える成年後見事件の概況は出題されなかったが、行政争訴や最高裁判例を問う非常に難易度が高い問題も出題されず、難易度は標準で、基本をおさえていれば正答を選べたのではないか。問題80は難しい言葉や長文の選択肢で一見戸惑うが、実は単純な内容で正答しやすい。問題81の成年後見制度利用促進法は、平成30年4月から厚生労働省が事務担当となったもので、今年出題されるのでは?と考えていた受験生も多かったのではないか。問題82は日常生活自立支援事業の流れを理解していれば正答を得やすい。問題83は虐待対応の関係機関の役割だが、立ち入り調査の権限など踏み込んだ選択肢で、どれもが正答に思えてしまい正答に悩む問題であった。