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第31回 社会福祉士国家試験 科目別分析【専門科目】

専門科目 分析
社会調査の基礎  この科目が試験で出題されはじめてから数年は、受験生一般の平均的な学習習熟度を超えた、難易度の高い内容が出題され続けたが、ここ数年ではその傾向が和らぎ、科目名通りテキストレベルの「基礎」的な出題が中心となってきた。その傾向を受け、今年は過去の出題に忠実な、標準的な問題ばかりであった。このため受験生は安心して問題に取り組めたのではないだろうか。
 個別の問題に関しては指摘するほどの特徴がないぐらいであるが、あえて挙げるとすれば、先ずは問題87であろう。調査票の回収後の手続きに関しては出題のテーマとしては既出であるが、内容をしっかり理解していなければ、正答を選ぶのにはそれなりに苦労しそうである。また問題88の量的データの集計や分析については、内容としては過去の出題実績を考えれば驚くようなものではないものの(既出題の用語ばかり)、用語の意味をきちんと把握していない受験生は、正解を選ぶことに迷われたことと思う。この科目に関しては用語等が難しいイメージが先行しているようだが、教科書や参考書にある基礎的な部分の理解が最も重要である。そのためきちんと学習を進めたかどうかで得点できたか、受験生の間では相応の差が出たのではないだろうか。
相談援助の
基盤と専門職
 例年、午後科目の中でも比較的得点しやすい科目の1つであるが、今年は一部の問題において難化したようで、受験生にとっては多少苦労されたようである。しかしながら全体としては平易かつ基本的な内容を一通り問う、良問揃いの内容であった。ひとつひとつの選択肢を見ても判断に迷うようなものも特に見あたらず、ここである程度得点できた受験生も多かったと思われる。
 個別の問題を見ると、問題91で社会福祉士法の規定、問題92でソーシャルワークのグローバル定義が出題されており、定番の出題と言ってよいだろう。合格水準に達している知識を持った受験生であれば、ほぼ容易に解答できるような出題であった。しかしながら問題93のポストモダンの影響を受けたソーシャルワークは未出題のテーマであり、ここで先ず正答を選ぶのに苦労されたのではないだろうか。更に問題94のソーシャルワークの発展に寄与した人物の出題については、未出題の人物が出ることで選択肢の正答を選ぶのに、かなり悩まれたと思われる。ただ落ち着いて語彙を確認してゆけば、既に試験で出題されている人物の特徴から、それぞれの不正解の選択肢を何とか選ぶことができる。この2問で多少受験生は足踏みをしたかもしれないが、問題95のアドボカシーの問題については平易な内容であった。
 問題96及び問題97の事例問題については、どちらも正答を2つ選ぶものであったが、ざっと問題文を読んだだけでも、選択肢の正答が明らかに選べる内容であった。ここでの得点は合格のためには必須であろう。
相談援助の
理論と方法
 例年の出題傾向が踏襲された観がある問題であった。ただ比較的受験生が苦手とする理論問題については、未出題の人物が出たことで、一部の選択肢に判断に迷うものもあり、過去の出題と比較して多少難化したようである。
 特徴的な問題としては、理論分野のテーマから、問題98のケンプと問題アイビイが未出題の人物であり、正答を選ぶのに苦労されたと思われる。しかしながら問題100のピンカスとミナハンや、問題102のホリスなどはおなじみの出題であり、問題103のソーシャルワークのアプローチと合わせて、受験生にとっては定番の出題内容であった。また問題105では、「現代社会と福祉」でおなじみのブラッドショウ(ブラッドショー)のニード論が出題された。ここでどれだけ得点できたかで、この科目の出来が変わってくると思われる。
 また今年は昨年に引き続き、問題117で個人情報保護法が出題された。業務上個人のプライバシーにかかわる情報を多く扱う社会福祉士にとっては、必須の知識と言って良いだろう。事例問題については、問題文のテーマとして問題99で外国籍の住民、問題118で日系人、問題106で震災後支援など、昨今の社会情勢を反映した現代的な内容が取り上げられていたことが印象的であった。
福祉サービスの
組織と経営
 以前はこの科目を苦手とする受験生が多かったが、ここ数年の問題を見ると明らかに出題内容は易しくなっている。今年度の問題においても、その傾向は同様であった。また、今年度は頻出であった社会福祉法人に関する出題がなかった。受験対策をしっかりと取り組んできた受験生は、戸惑ったのではないだろうか。
 問題119の福祉サービス経営に関する出題では、コンプライアンスとガバナンスの内容が理解できていれば解答できる。選択肢にCSV(共有価値の創造)を入れて難易度を上げようとしているが、コンプライアンスとガバナンスは過去において、何度となく出題されているのでしっかりと準備をしてきた受験生は容易に答えられたと思う。
 問題120のリーダーシップ理論は難易度が高めであった。行動理論、条件適合理論、カリスマ的リーダーシップを確実に理解していないと正解は難しい。選択肢1のパスゴール理論か、選択肢5のマネジアル・グリッドか悩んだ受験生が多かったと思われるが、正解は1のパスゴール理論である。
 問題121は財務管理と資金調達に関するものであった。このような複式簿記に関する基礎用語を出題するのは、社会福祉士の国家試験として適切かどうか検証してもらいたい。
 問題122は、リスクマネジメントに関する厚生労働省の指針からの出題であった。基本的な知識がなくとも、文章読解力があれば選択肢3と4が正解であると答えられる。
 問題123は、過去も出題されたドナベディアンのヘルスケアの質の評価に関する問題であった。こちらは構造・過程・成果3つの質を理解していなければ正解できなかったと思われる。正解は選択肢1と4となる。
 問題124は福祉・介護サービスの提供体制に関する出題と昨今取りざたされているサービスの質を向上させるための取り組みを問う内容であった。運営適正化委員会、福祉サービスの第三者評価、介護サービス情報公表制度に関する知識があれば迷わず正解が選択肢5であるとわかる。
 問題125は人事管理に関する基本的な用語の内容を問うものであった。過去に出題された目標管理制度、成果主義、人事評価、職務給といった仕組みを臨沂できていれば、正解はダイバーシティ・マネジメントに関する選択肢2であると答えられたと思う。教科書をベースに基本用語の理解、過去問をしっかりと学習していれば、確実に得点できたと思う。
高齢者に対する
支援と介護保険制度
 出題全体において、今年は昨年と比べてやや難化したようである。決して得点できないような難問・奇問のたぐいはないが、例えば問題127の事例問題では、障害高齢者の対応を考えることで、介護保険法だけではなく、障害者総合支援法と合わせた横断的な知識を問うものとなっていたり、問題128の介護の出題では単なる麻痺者の対応だけではない、しっかりとした知識を問う出題とするなど、よく考えて作問されている分、受験生は戸惑いも多かったのではないだろうか。
 なお昨年比では難化と言えるが、他科目との難易度の比較からすれば、試験全体では標準的な難易度の問題であったといえよう。出題数も10問と多く、特に介護保険制度についてはかなりの出題がなされていたので、しっかりとした学習をしてきた受験生にとっては、相応の得点が見込まれる出題であった。
 上記以外の特徴的な出題としては、先ず問題129の認知症初期集中支援チームが挙げられる。近年の高齢者福祉の動向を考えれば、出題も予想の範囲と言えよう。また既に用語としては出題されているが、問題132の介護相談員が独立した1つのテーマとして出題された。こういった試験にとってマイナーな内容の出題は、受験生にとって学習を進める上でなかなか手がまわらない分野であり、このため準備が間に合わなかった受験生は、手を焼いた設問となったのではないだろうか。
児童や家庭に対する
支援と児童・家庭
福祉制度
 今年も児童福祉法を中心に、出題基準に沿ってバランスよく、そして試験の標準的な難易度の出題がなされた。難問・奇問のたぐいもないことから、他の科目と比較しても、全体的として正答を導きやすい。問題文も短いものが多いことから、試験後半で疲労の蓄積してきた受験生にとっては、救いの科目となったのではないだろうか。
 問題の傾向としては、児童福祉法を中心に、要保護児童施策の分野が良く出ているのだが、近年はより子育て支援の分野についての出題が目立つようになってきた。また例年2問(年度によっては1問)の事例問題が、今年は3問となっている。
 特徴的な問題をあげれば、先ずは問題139の母子健康包括支援センター(子育て世代包括支援センター)であろう。改正母子保健法を受けた内容のため、出題は予想の範囲であった。また問題140の特別養子縁組については、見直しの検討がなされており、ここもトピックな問題の1つと言える。そして問題142の児童相談所の相談に関する統計は、虐待件数など世間的にも注目されている重要なテーマである。
 このように児童福祉を知る上で基本となる出題もされつつ、近年の動向を踏まえて考慮された、望ましい作問が揃った出題内容であった。  
就労支援サービス  出題数4問という制約の中で、毎年のことながら出題基準の内容を踏まえて4問全体のバランスを考えた出題がなされていた。過去の出題を踏まえた上で、「就労支援」という学習習熟度をはかる問題としては、良い問題が揃っているのではないだろうか。
 個別の問題を見ると、問題143で労働統計が出題された。昨年は未出題であったが、過去5年では4度の出題であるので、比較的定番と言って良いだろう。選択肢5などは多少正答に迷うかもしれないが、他は社会一般の知識としても解答できる内容であった。次に問題144では被保護者就労準備支援事業が出題された。未出題の内容であったが、生活困窮者自立支援法に基づく就労準備支援事業に相当する事業として、改正生活保護法により制度化されたものであるので、出題は十分予想できる内容である。また問題145では、就労支援を担う機関が出題された。すべて既出題の内容であり、雇用就労のこの科目では必須の知識と言ってよい、最後の問題146では、事例問題として、昨年に引き続き障害者就業・生活支援センターが出題された。なお昨年の内容は事例形式の労働諸法令に基づく出題であったが、今年は事例一般の対応の問題であった。
 本来は「就労又は就労支援」ということについて広く理解すべき科目であるが、福祉においてこの分野がまだまだ発展途上ということも背景にあるなか、今年も良く考えた出題がなされていた。  
更生保護制度  今年も過去の出題に忠実な、取り組みやすい問題であった。例年「更生保護制度の概要」からの出題が圧倒的に多く、特に制度の概要と保護観察制度が定番化しているが、今年も同様の傾向であった。過去の試験において更生保護制度の手続き面における細かい規定まで出題される場合などもあったが、今年は法の条文通りの基本的な事項が問われており、平易な内容と言えるだろう。
 個別の問題としては、先ず問題147で保護観察制度が出題された。選択肢3の刑の一部執行猶予制度も既出題の内容であり、特に判断に迷うような選択肢は見当たらないほど、定番の内容であった。問題148では、保護観察官と保護司の出題がなされた。選択肢3の採用試験のことは未出題であったが、特に驚くほどの内容ではない。こちらも容易に解答できる内容であろう。問題149では、更生保護の機関等が出題された。こちらも全ておなじみの内容と言って良いだろう。最後の問題150では、昨年は事例問題であったが、今年も社会復帰調整官のから出題された。医療観察法の分野からは28回、29回での試験では出題されなかったが、26回、27回でも連続で出題されている。このテーマも試験対策上は、必須と言って良いだろう。
 全4問と少数だが、この科目はしっかりと過去問対策をしてきたかどうかで、受験生の正答には差が出る科目である。今年も学習をしてきた受験生の努力を正当に評価するという作問の意図からすれば、バランスのとれた良い出題であった。

 

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