HOME > 第31回社会福祉士国家試験結果分析 > 科目別分析【共通科目】

第31回 社会福祉士国家試験 科目別分析【共通科目】

共通科目 分析
人体の構造と
機能及び疾病
 午前科目の1番目である人体の構造と機能及び疾病は、緊張の中で解答をスタートする科目であるため、思わぬ読み間違いやある程度の絞り込みが出来ていても最後の選択で誤ってしまう傾向がある。
 今試験においては例年の出題傾向と大きく変わらない出題内容であったが、問題6の障害に関する問題、問題7の精神疾患の診断・統計マニュアル(DSM-5)における「神経性やせ症/神経性無食欲症」の診断基準に関する問題については、正答を2つまで絞り込みながらも最終的な正答に迷った受験生も多かったのではないだろうか。
 一方で問題1のエリクソンの発達段階に関する問題、問題2の人体の各器官の構造と機能を問う問題、その他問題3~問題5に関しては、いずれも基本的な学習によって正答を導き出せる基礎的な出題であった。問題の作られ方としても正しいものと誤っているものがはっきりしており、試験の出だしが良い形でスタートできた受験生が多かったのではないかと読み取れる。
心理学理論と
心理的支援
 問題のつくりとして、覚えていることよりも一つ一つの項目を理解していることを求められた出題方法であった。心理学理論と心理的支援の出題は、毎年出題項目から安定して問題が出題され、頻出の問題や項目を丁寧に学習することで一定の得点が期待できる科目である。
 今試験においても同様で、問題8が動機づけ、問題9が感覚・知覚、問題10が記憶、問題11が防衛機制、問題12のストレス対処法(コーピング)の出題は何れも頻出の問題で、近年の出題傾向にみられる、具体的な場面やエピソード等を混ぜながら出題をする傾向も変わりなかった。
 一方で、問題13の心理検査に関する出題は、アルファベット名のみの記述で短文設問になっており、適切なものの選択であるため、誤りの設問を消す消去法よりも適切なものを導き出せるかが正答の分かれ目となったのではないだろうか。
社会理論と
社会システム
 社会理論と社会システムの学習において、人物や著書などの項目も一定数あり、学習が人物や著書等の暗記に偏る傾向があり、暗記の学習では今試験問題では解答が難しかったのではないか。反面、重要な出題項目を整理して理解できていた場合は、今試験問題は比較的平易な出題に感じた受験生もいたと考えられる。
 問題15の社会指標の出題を見てみると、貨幣的な量ではないものを選ぶ必要があるものの、「社会の福祉水準を測定する」とう出題の但しがあるため、何を問われているのか理解したうえで設問選択に入らないと、まったく違った視点で最も適切なものを選択する可能性がある。同様に問題17や問題20の社会的行為を聞く問題においても、問われているポイントを理解することから解答をすることが求められた。
現代社会と福祉  社会福祉全体の考え方や仕組みの理解が求められる基礎科目であるが、今回の出題では最新の福祉の動向を中心に、より幅広い分野からの出題が見られた。特に出題の半数以上が試験での未出題分野ということもあり、問題文を見た受験生は、先ずその内容に驚かれたのではないだろうか。受験対策本だけを学習したような知識では解答できず、例えば『新・社会福祉士養成講座』(中央法規出版)などの書籍によるしっかりとした学習を通じて、日頃から多様な分野の情報を仕入れた受験生だけが、この科目の攻略に至ったことと思われる。
 問題を個別に見てみると、問題22国連「人間の安全保障」、問題25「福祉避難所の確保・運営ガイドライン」、問題26「ヘイトとスピーチ解消法」、問題27「世界幸福度報告書」などは、今回が初めての出題となった。また問題23も、社会理論と社会システムにおいては出題済の人物と合わせて、未出題の人物も出ていた。現代的なテーマとしては、問題28性同一性障害や性的指向・性自認、問題31最低賃金制度も、独立した問題としては未出題と言って良いだろう。
 総じて今年もこの科目についてはは多くの受験生が苦労させられたと思うが、ただし全く得点できない難問なのではなく、深い学習を重ねてきた受験生にとっては、良問ぞろいであったとも言えるそういった受験生の「解答力」を試す、力量が求められる出題内容であった。
地域福祉の
理論と方法
 この前の科目の「現代社会と福祉」が、試験での未出題分野が多かった分、今年の本科目については出題基準の大項目からバランスよく出題され、出題の中心も「地域福祉に係る組織、団体及び専門職や地域住民」ということから、テーマとしては例年通りの出題傾向であったと言える。但し個々の出題内容を見ると、一見やさしそうに思えるが選択肢によっては正答を導くのに悩まされる内容も見受けられ、その点では受験生の得点率に差が出てくる、やはり「相応の難しさ」がある出題であった。
 出題の特徴を見ると、今年は問題34、問題38、問題40と、事例問題が3問であった。例年は2問の出題であり、29回試験では1問であったことからすれば、ここは大きな変化といえる。但し出題そのものは解答しやすいが平易な内容であった。また出題テーマとしては、問題33地域福祉に関する理念や概念、問題35社会福祉協議会、問題36地域福祉の対象などは、比較的取り組みやすい出題であったが、他の出題では細かい分野からの出題も見受けられ、受験生も苦労したのではないだろうか。
 以上のことから、細かい選択肢による取りこぼしは仕方ないものの、確実に得点が見込まれる問題をしっかり正答してゆけたかで、受験生の間では点数の伸びに差ができたと思われる。 <
福祉行財政と
福祉計画
 福祉計画に関する問題が実質5問、福祉行政の実施体制からは1問、福祉行財政の動向からは1問の出題となった。バランスとしては、やや偏った感はあるが問題の難易度はとしては、一昨年並みといったところか。
 福祉行政の実施体制体からは都道府県の役割(問題42)、福祉行財政の動向からは一般会計の社会保障関係費(問題43)、福祉計画の主体と方法からは策定過程、策定方法、評価方法に関する問題(問題45、問題46)が出題された。時事問題として第5期障害福祉計画か第7期介護保険事業計画が出題されることが予想されたが、今回は第5期障害福祉計画からの出題(問題48)となった。
 医療と介護の改革に関する出題(問題44)は、この科目で出題されるとは想定外であった。問題42に関しては、高齢者分野と障害者分野に対する実質的な権限は市町村が主体となっていることをわかっていれば解答が得られる。問題43は、高齢社会であることを理解できていれば年金給付の予算が最も社会保険関係費で多いとわかる。過去の出題実績から民生費に絞って学習してきた受験生は、拍子抜けする問題であったと思う。
 問題44は設問の難易度は高いが新聞などに目を通していれば、介護医療院の設置が正解であると気付けたと思う。問題45は、頻出問題であり過去問に取り組んでいれば迷わず正解は選択肢3であると答えられたはずだ。一方、問題46は過去問に取り組んできた受験生でも正解を得ることは難しかったと思う。正解は選択肢3のPDCAサイクルの活用である。福祉新聞等の専門の情報誌に日頃から目を通しておかないと、このような問題を解くことはできない。問題47は福祉計画における市町村と都道府県の役割が大まかに理解できていれば、答えることができる。問題48は選択肢2が正解であるが、第5期障害福祉計画の基本指針を一読しておかなければ正解は得られない出題となっている。
 この科目に関しては、福祉行政の組織団体の役割や専門職の役割に関する問題が出題された年は、受験生の平均点が上がる傾向にある。今年度は、1問も出題されていないことから、ボーダーラインはかなり下がるのではないだろうか。
社会保障  社会保険制度が出題の中心になっているのは、この科目の毎回の特徴であり、事例問題2問という出題の傾向も含めて、今回もその傾向は踏襲されていた。その出題の傾向はわかるものの、社会保険制度の体系や具体的な手続き内容についてまで問われることが多いため、苦手意識とあいまって例年受験生が苦労する科目の1つであり、今回も全体的には難度は高めの出題であった。
 内容としては社会保険以外の分野として、先ず問題50の民間保険があげられる。出題基準にも明記され、過去には出題の実績はあるが、29回の自賠責保険以外では直近5年での出題実績はなく、受験生も驚いたのではないだろうか。但し出題内容は平易であり、正答を選ぶのが容易なことは救いである。また問題55の諸外国の制度も、過去の出題実績からすれば比較的定番ではあるが、近年では29回試験での出題以外、直近5年での出題がなく、また分野的に受験生も学習上後回しにしがちなため、正答を選ぶのに苦労した受験生も多かったのではないだろうか。
 問題49や問題53などの定番の出題はあるものの、事例問題の2つは相応の難しさがあり、今年もこの科目については、受験生を悩ます出題であった。
障害者に対する支援と
障害者自立支援制度
 出題の中心は障害者総合支援法であり、る。他の法からの出題も1、2問ずつ見られるが、障害者総合支援法を中心とした出題傾向は、今年も見られ、事例問題もしっかり2問出題されていた。その意味では例年通りの出題と言える。
 特徴的な点をあげれば、先ず問題56「生活のしづらさ調査」であろう。既に平成23年調査での出題実績はあるが、5年ごとの調査のため定番の内容とは言えず、近年は統計を使った出題が少なかったことからも、問題を見た受験生は少なからず動揺したのではないだろうか。なお問題57以降は、障害者総合支援法を中心に、例年通りの福祉サービスを中心とした出題であったため、それ以降は落ち着いて問題に取り組めたのではないだろうか。また問題58で、平成30年4月施行の改正障害者総合支援法の内容として自立生活援助が出題されていた。就労定着支援の出題はされなかったが、出題の可能性はかなり高いと思われていたので、しっかりと学習していた受験生は、容易に正解を選べたと思われる。
 なお余談であるが、問題61については昨年に浅田訴訟(岡山市に対する重度障害者である浅田達雄さんの訴訟)で、旧自立支援法であるが岡山市の敗訴が確定している。高裁判決は確かに平成30年12月のことだが、訴訟そのものは6年も続いていた。試験委員も当然知るべき内容であろう。その点からすれば、試験の出題としては問題の残る内容であった。
低所得者に対する
支援と生活保護制度
 2018年には生活保護法の改正があり、今試験においてどの程度の出題があるか注目されていたが、当該年の改正に関して深く問われることは少ないといった流れ通り、問題63の低所得者の状況を各調査から把握する出題と問題64の生活保護の基準に関する出題があった程度であった。問題65の扶助の種類を問う問題は、迷いやすい設問がありながらも正答をはっきりと見つけて解答できれば平易な問題である。
 事例問題が2問出題され、問題66は扶養義務者との関わりを問う問題、問題68は生活困窮者自立支援に関する問題で、いずれも問われているポイントを理解していれば正答を導き出せるものであった。また、問題69の無料定額宿泊所に関する出題は、短文の設問で且つ基本的な知識があれば正答できる問題である。出題内容としては基礎的な知識を問われる出題であった。
保健医療サービス  第7次医療法改正、平成30年診療報酬改定などがあった平成30年の保健医療サービスの出題であったが、例年通りの出題傾向で受験生を惑わすような出題はみられなかった。しかし、問題74のへき地医療に関する問題や問題76の事例問題の設問4においては、ACP(アドバンス・ケア・プランニング)が出題されており、医療法改正や診療報酬改定も意識して出題されたものと考えられる。問題75の医療関係職種に業務に関する問題は、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、臨床工学技士、技師装具士をそれぞれ問う問題となっており、第29回試験で出題された幾つかの医療・福祉専門職の業務や根拠法などを問う出題と近似しており、この出題方法は今後も続くと考えらえる。
 事例問題については、受療援助と経済的な援助を問う問題であったが、設問から正答の絞り込みが容易であるものの、ACPの用語に迷った受験生もいたのではないか。毎年出題されている国民医療費の出題については、毎年安定して出題されており、次回試験以降の受験生においても国民医療費に関する学習、診療報酬制度に関する学習などはしっかりとやっていく必要がある。
権利擁護と
成年後見制度
 この科目の今年の最大の特徴は、成年後見制度からの出題が激減したことではないだろうか。問題79で、旧試験制度の「法学」ではそれなりに出題されていた「行政事件訴訟法」も受験生にとっては困難な学習範囲の1つではあるが、定番である「成年後見事件の概況」の出題以外では、出題が大いに予想される成年後見制度の分野から問題80と問題81の一部しか出題されないというのは、出題数のバランスという点では、大いに疑問の残る出題内容であった。安定した出題傾向の科目の1つであり、また午前試験科目の最後であるので、解答時間の残り少ない中で取り組む受験生にとっては、非常に酷な出題と言える。
 なおバランスの点では疑問の残る内容であるものの、問題そのものは事例問題の2問も含めて、よく考えられた良問であった。問題77では権利擁護の根幹である生存権について、法の横断的な視点・知識を要求する出題となっており、また問題78では現在見直しがなされる予定である特別養子縁組が出題された。問題82の特商法や、問題83の児童虐待も、権利擁護としては大事な内容である。
 繰り返しになるが、個々の問題が良かっただけに、全体のバランスを欠いた出題傾向だけは、非常に残念なことであった。

 

Web自動採点