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第19回 精神保健福祉士国家試験 科目別分析【共通科目】

共通科目 分析
人体の構造と
機能及び疾病
試験科目最初の科目である人体の構造及び疾病は、出題の内容や難易度が毎年安定している科目である。時事によって変わることはあるが、今回出題されているような長い間頻出となっている項目からの出題も引き続き出題されている。問題1は成長と発達からの出題で、これはよくある出題順であるが難易度は高い。問題2に関してはこれまでも頻出の設問ばかりであった。問題3については心臓の解剖に関する出題で解答に迷った受験生が多かったであろう。問題4が感染症に関する問題、問題5が生活習慣病に関する問題で分野としては伝統的な出題項目で、この2問が解答できなければ科目の得点が苦しくなる。問題6はレビー小体型認知症の出題であるが主症状を理解していれば正答できるものであった。
心理学理論と
心理的支援
毎年安定した出題傾向と安定した難易度である心理学理論と心理的支援であるが、今年の問題は少々難易度が高い出題であった。過去問題やポイントを絞ったテキストの学習で臨んだ受験生は少々悩んだであろうかと思われる。 問題8は高次脳機能に絡めた前頭葉の説明を求めた問題で、問題としては脳と心に関する問題であるが、出題基準の順番として迷った受験生も多かったのではないか。問題9の気分に関する問題も過去出題された回数の少ない分野であったが、設問が平易であったために正答が導き出しやすかった。問題13の系統的脱感法に関する設問は、行動療法の整理ができていて、長文の設問を丁寧に読み解く必要のある問題であった。問題14のカウンセリング場面での応答を問う問題は、近年の出題を踏襲した出題で、今後も同様の出題が続くと予想される。
社会理論と
社会システム
試験に向けての学習では、人物やその理論、著書を理解する事に苦手意識を持ちがちな科目であるが、今年の出題においては人物が出題されず、さらに世帯や人口についての出題もされなかった。生活の理解として問題17のライフサイクルが出題され、人と社会の関係から問題19に社会的行為、問題20に社会的役割が出題され、さらには社会問題の理解から問題21にラベリング論が出題された。過去の傾向と比較すると理論に関する出題が多く、一見容易な問題にも見受けるが、択一に絞ることに苦慮した受験生も多かったのではないであろうか。問題15は所得格差を示す指標を用語のみ並べた近年出題が少なくなっている形式で出題されたが容易な内容であった。問題18の「平成27年版高齢社会白書」からの出題は少々解答に迷った受験生も多かったのではないか。
現代社会と福祉 過去の出題においては他の科目に比べて難問が多い科目であるが、今年は出題基準の範囲を逸脱するような問題もなく、福祉全般にわたって幅広く出題されており、全般的に良問が揃っている内容であった。 出題の特徴としては、今年は理論の出題が少なく(問題22や問題27のみ)、逆に各種報告書や白書などの行政関係の公表資料からの出題が多く見られた。従来から定番の歴史分野からの出題も問題24や問題25のみで、その意味では科目通り「現代社会」としての福祉を知るという意味合いが強い出題内容であったと言える。 問題全般としては、受験生を悩ますような正答を導きにくい設問もあまり見受けられず、深い学習を重ねてきた受験生にとっては、むしろ例年の出題より易しく感じられたのではないだろろうか。単なる丸暗記ではなく、時代背景を踏まえた福祉の歴史的発展を学んだ上で体系的な学習をしてきた受験生にとっては、例えば問題24や問題27など、概念の理解さえしっかりしていれば容易に正答を導き出すことが出来たのではないかと思われる。
地域福祉の
理論と方法
問題数もさることながら、例年出題範囲が広く、比較的難易度が高い『地域福祉の理論と方法』であるが、今年の出題テーマについては、過去の出題に沿った分野からのものも多かったので一見やさしそうに思えるが、個々の選択肢の内容などを良く見ると、今年も正答を導くのに悩まされた受験生も多かったのではないだろうか。 出題のテーマを見ると、問題32の地域福祉の学説、問題33のイギリスのコミュニティケア改革の報告書、問題34の民生委員・児童委員などは、この科目においては定番の出題であるが、問題35のソーシャルアクションは援助技術や、問題41の福祉計画等は行財政と福祉計画など、他科目で出題してもおかしくない内容もあり、文章の読み込みも含めて、合計10問の正答の導きまでかなりの時間を要したのではないだろうか。また問題34の出題などは、最初に問題を見た受験生は、会場でかなり動揺されたのではないかと思われる。このように解答に時間がかかるような、難度が高い部類に入る問題での得点は難しいと思われるので、確実に得点が見込まれる易しいものを確実に正答してゆけたかどうかで、点数の伸びは受験生個々人で相応の差が付いたと思われる。
福祉行財政と
福祉計画
過去問に取り組み、細かいことまでしっかりと準備してきた受験生は、拍子抜けしたのではないかと思われるほど、ライトな出題内容であった。ほぼ毎年出題されてきた地方財政白書に関する問題は出題されず、代わりに1990年以降の行財政の動向といった(問題46)問題が出題されており、内容もかなりマイルドなものであった。三位一体改革の意図する目的を理解できていれば、迷わずに正解を導けたはずである。福祉計画(問題47、問題48)に関しても、頻出の福祉計画を理解していれば、容易に正解を答えられる内容といえる。一方、比較的正解率が高いため出題頻度が少なかった、専門職に関する門題(問題45)や制度利用に関する問題(問題46)が揃って出題された。共同募金に関する問題42も、基本事項を理解できていれば、正解は3であるとすぐに答えられたはずである。問題43の地方公共団体と社会保険等に関する問題も、各保険の詳細までも問うような内容となっておらず、地方自治体の保険に関するリーフレットの内容レベルのことを理解できていれば、正解できるものである。以前はかなりマニアックな問題が出題されていたが、テキストをベースにしっかりと基本事項を押さえておけば間違いなく解答できるレベルへとシフトしている。
社会保障 社会保険制度が出題の中心になっているのは、この科目の毎回の特徴であるが、事例問題での出題も含めて、社会保険制度の体系や具体的な手続き内容についてまで問われることが多く、今回も全体的に難度が高い出題内容であった。特に事例問題の2つについては過去問での出題実績があることを踏まえて考えても、受験生一般にとって難度は高めであると思う。きちんとした学習をこなしてきたかどうかで得点に結びついたか、受験生間で大きな差が出たのではないかと思われる。 内容については、社会保障費用統計や、諸外国の社会保障制度、社会保障制度の歴史的展開などの分野から出題されたが、社会保険分野からは、年金保険、雇用保険がそれぞれ1問ずつ独立した形で出題されたが、医療保険、労災保険、介護保険などについては、問題の中で選択肢の1つとして出題された程度であった。介護保険は午後科目の高齢者や、医療保険は保健医療サービスなどで出題されていることを考えると、問題数を考慮すれば、おおむね妥当な出題量ではないだろうか。
障害者に対する支援と
障害者自立支援制度
障害者総合支援法、改正児童福祉法による障害児支援のサービスなど、例年通りの福祉サービスを中心とした確実な知識が要求される問題だった。しかしながら全体としては、問題57も含めるなら障害者総合支援法の出題が多くを占め、その点では出題のバランスを欠いた問題であったと言える。 確かに問題62の虐待防止法や、問題60や問題61などの各種法的定義などの出題も見られるが、例えば障害者福祉の歴史的展開や理念、あるいは各種統計などの状況調査など、過去の出題実績から言えば、障害者福祉を理解する上で大事な内容の出題も必要だったのではないだろうか。障害者総合支援法が大事なことは無論理解できることではあるが、出題の7問すべてが法制度の問題であり、その意味では科目としての内容も広範囲にわたることなく、とてもお手本と言えるような出題のバランスとは言い難いものであった。問題そのものが良いだけに、出題の分野の偏りの件は非常に残念なことである。
低所得者に対する
支援と生活保護制度
低所得者に対する支援と生活保護制度については、毎年安定した出題傾向にあり受験前の学習においても他の科目と比較して過去問題や模試問題が国家試験に役立てることができる科目である。また、生活保護に関する原理と原則を基軸にして、各運用について問題をより多く解くことによって確実に力をつけることのできる科目でもある。 問題63の国、都道府県及び市町村の役割に関する問題は、明らかに誤りとわかる設問を鑑別しつつ職権による保護の開始を導き出すことができれば迷うことがないが、絞り込めない場合は解答に迷った可能性がある問題である。問題64、問題65、問題66については基本的な学習が出来ていた場合は容易に解答にたどり着くことができる。問題68には事例が出題された。アルコール健康障害対策基本法、アルコール健康障害対策推進基本計画が施行、実施されたことによって、いずれかの科目で関連付けされた問題とされて出題されることが予想されていたが、この科目で取り上げられた。
保健医療サービス 過去に出題された傾向と同様の出題であった。出題の内容を分析すると、国民医療費、医療法、診療報酬、医療機関の届け出基準、医療専門職の職能、主に医療ソーシャルワーカーの業務を中心とした事例が1問から2問程度といった組み合わせであったが、今回の出題はまさにその傾向通りの出題で、ある程度の事前学習が成されていた受験生には平易な出題内容だと感じたのではないであろうか。問題70の国民医療費については、年齢階級別や傷病分類別の設問がありつつも、総額についての設問があり容易に正答が導き出せる。問題71についても、近年頻出の在宅支援診療所が含まれており、こちらも平易なものであった。問題72、問題73ともに過去問題でも同様の出題があったものである。問題74、問題75が事例となっているが、医療ソーシャルワーカーの業務を中心とした出題で平易なものであった。この科目全体でみても得点を稼ぐことができる難易度であったといえる。
権利擁護と
成年後見制度
問題80で、旧試験制度の「法学」ではそれなりに出題されていた「国家賠償法」が復活した以外では、本年度についても例年と同様、出題基準に沿った形での、安定した出題数のバランスであったと言えると思う。成年後見制度について任意後見の出題がないのは致し方ないとは思うが、法定後見については、やはりしっかりとした受験対策をしてきた受験生の努力にこたえるためにも、「後見」類型からの出題内容はほしかったと思う。 その他の出題については、確かに過去の出題実績からすれば妥当かもしれないが、問題79や問題83の民法の問題は、他の出題内容と比較すると、苦戦を強いられた受験生も多かったかもしれない。この科目も傾向としては安定していると見ることがきできるが、午前科目の最後であるので、試験時間終了近くで疲弊している受験生としては、易しい問題と難易度の高い問題の落差に戸惑い、最後の最後で解答に苦労した受験生が、相応数いたのではないかと思う。

 

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