社会福祉士国家試験情報第28回 社会福祉士国家試験 科目別分析【専門】
科目別分析【専門科目】
社会調査の基礎
午後科目の最初であり、毎年のごとく開始後出鼻をくじかれるような、難易度の高い内容が出題されるのがこの科目であったが、本年度については、明らかにその傾向が和らいだようである。但し決して易しいということではなく、個別の問題・選択肢については、点のとりづらい内容もあり、それなりに問題の難しさを個々に備えた出題内容のため、終わってみればやはり今年もそれなりに受験生は苦労したようである。
しかしながら個別の出題を見ると、昨年までのようにこれまで未出題の分野からや、見た瞬間に計算が必要なのかと思わせるような、受験生を動揺させる出題はなく、すべて受験対策上の標準的なテキストレベルの内容から出題がなされた。見た瞬間に「捨て問題」としてしまうような、難解に見えるものがないため、あきらめずに7問分しっかりと取組み、相応の正解を上げた受験生も多かったのではないだろうか。
午後の最初で気負いしている面もあるとは思うが、問題文を落ち着いてよく読み、何を問うているのか改めて確認してから問題を解く慎重さがあれば、今年はかなりの数の正解が取れたと思われる。
相談援助の基盤と専門職
例年、比較的得点しやすい科目の1つではあるのだが、今年は一部得点のとりづらい問題があったため、少し苦労されたかもしれないが、全体的には難易度は易しめで、ここで得点を稼いだ受験生も多かったと思われる。合格水準に達している知識を持った受験生であれば、容易に解答できた設問も多かった。
特徴的な出題としては、問題92でソーシャルワークのグローバル定義が出題された。これは出題が十分予想されるものであったので、その意味では想定内と言えるだろう。また問題95で認定社会福祉士制度の出題がなされた。将来の方向性ということでは知るべきことではあると思うのだが、まだ社会福祉士にもなっていない受験生が学ぶべき事項となると疑問が残るところである。出題が不適切とまでは言えないが、他にもっと問うべき大事な内容があるのではないだろうか。
なお上記以外は落ち着いて選択肢の文章を読み、福祉的な概念など類推しながら考えてみれば、自然と誤りの選択肢は見えてくると思われる、素直に誤りが見つかる出題ばかりであった。
相談援助の理論と方法
主要人物の理論と代表的なアプローチ、並びに多様な場面における事例問題を中心に、社会福祉援助技術の全般にわたって、非常にバランスよく出題された。一部のアプローチ理論や事例問題において正答を導きにくい設問があった以外は、テキストレベルのオーソドックスな基本事項を問うものばかりであり、受験生においても非常に解答がしやすかったのではないだろうか。近年では出題全体において相対的に間接援助技術や関連援助技術の出題が少なく、そして出題されると難問となる場合が多かったが、この点が今回改善されているのは、非常に喜ばしいことである。その分受験生としてはケースワークやグループワークなどの直接援助の分野だけに限らず、この分野でも、一通りの学習は今後とも必要であろう。
この科目については、事例問題であってもそれ以外の出題であっても、どちらも援助者の「姿勢・態度・倫理・価値」 に関する出題が中心となるという点では変わらない。そのことを形式や内容を変え、多面的な出題としているだけである。素直に、そして文章の意の通り、余計な先入観やなどを一切排除し、原則通り考えて選択肢を選ぶことが、解答の基本であり、そしてすべてである。
またこれは相談援助の基盤と専門職なども同様であり、ひいては試験科目全般に言えることであるが、問題の解答にあたっては、正確な知識に基づく正否の判断ができるほどその知識がない、あるいはあやふやであっても、いわゆる常識を働かせれば解答が可能な問題が、出題全般の中ではそれなりに毎年散見されている。そのことは特にこの科目については毎年見られることも一つの特徴と言える。
福祉サービスの組織と経営
社会福祉法人の新会計基準や人材確保に関する施策等、時事的な出題が予想されていたが、ふたを開けてみると易しい問題ばかりで、受験生は内心ほっとしたのではないだろうか。問題119は頻出の社会福祉法人に関する出題だが、明らかに間違いであるとわかる設問が多く、正解が4であると答えられる。問題120は経営の定義について問われているが、文章の読解力があれば正解が5であるとわかったはずだ。問題121は動機づけ理論に関する設問であるが、マグレガー、ハーズバーグ、ブルームに関しては、過去にも何度も出題されている。マクレランドとロックは初めての出題であり、戸惑った受験生も多かったのではないか。問題122はリーダーシップ理論からの出題であったが、この科目で初めての事例問題であった。正解は2の状況リーダーシップ(SL理論)である。設問の理論は、すべてテキストに記載されており、その内容を問う意味では、良問といえよう。問題123は会計基準における用語の内容を問う問題であった。直接金融や貸借対照表の説明などがわからなくても、過去問に取り組んだ受験生は、既に出題された減価償却について理解できているので、正解が3であると答えられたと思う。問題124はリスクマネジメントに関する出題であったが、厚生労働省の指針を知らなくても、2が正解であるとすぐに判断できたと思われる。問題125は、こちらも頻出となっている労働法等に関する設問であった。労働契約、就業規則、労働協約に関する基礎知識があれば、迷わず4が正解であるとわかったはずだ。いままでは、専門科目の中で、最も苦手であると答える受験生が多かったが、今年度の内容を見る限り、過去問やテキストにしっかりと取り組んでいれば高得点が可能な科目となったといえよう。
高齢者に対する支援と介護保険制度
出題全体において、近年は比較的難化の傾向が見られる科目であるが、その傾向からすれば今年は易化したのではないだろうか。出題数も10問と多いため、得点を稼ぐつもりで受験生も臨むのだが、ふりかえってみると点数が伸びなかった過去の出題内容と比べ、今年はそれなりに正答を得ることができた受験生も多かったのではないかと思われる。
しかしながら出題全体としては、介護保険制度やその関連する制度からかなりの出題がなされたので、どの受験生も十分に介護保険制度等については学習してきたと思うが、その多さに問題を解きながら辟易したのではないだろうか。出題されると易しい介護に関する分野からの出題もなく、また問題129のように介護報酬上の加算の要件が出題されるなど、それなりに正解を選ぶ際には難渋したと思われる。
介護保険以外の特徴的な出題としては、問題135で、いわゆる「サ高住」でまるまる一つ問題が作られている。問題130のいわゆる「総合事業」の出題とともに、ここは近年の高齢者福祉を象徴するような出題内容ではないだろうか。事例問題の出題もすっかり定着したようで、昨年は1問に減ったが、今年は26回や25回と同様に、2問出題された。出題の内容も適切であり、「理解」ということに対する試験という形での学習の効果を考えればと、バランスとしても良いのではないだろうか。
児童や家庭に対する支援と児童・家庭福祉制度
近年、問題が難化しつつ、更に選択肢の内容も細かい点を問うという対策の立てづらい出題となってきていた児童福祉であったが、今年は昨年と同様にその様な悪しき傾向から脱し、基本的な問題を中心としたあきらかに点を取らせるような出題も出てきており、その意味では全体的に今年の出題は過去5年間の出題実績などから比較すれば、やや易化したと言えるだろう。
出題内容としては児童福祉法に加えて、児童虐待防止法や母子保健法など、原点回帰の様な出題となっており、加えて児童福祉の歴史や児童虐待の統計など、児童福祉を学ぶという意味では、バランスの良いものであった。また全体的に問題文が短く、そのため容易に解答も見つけやすくなり、この前の科目の高齢者に対する支援と介護保険制度で苦労した分、「ここで得点調整しているでは」というぐらいの難易度の差であった。
また出題の特徴として、不適切問題となってしまったが問題141が少年法における対応の問題であった。更生保護制度とあいまって、少年司法もこれからこの科目の重要なテーマに今後なってゆくという傾向が、今年も見られた。近年の子育て支援のテーマとあわせて、この分野の出題については、今後は定番化してゆくということを断言して良い、そういう段階まで来たのではないだろうか。
就労支援サービス
障害者や生活保護受給者を中心とした出題や、労働統計や障害者雇用率制度など、従来通りの傾向を踏襲する内容からはいささか外れた感のある出題ではあったが、内容については出題基準に沿った、問題数が少ないということからすれば出題のバランスに配慮したものであった。更に問題の難易度についても正答に迷うものがなく、前年度等や過去の出題と比較しても、易化した出題であった。しっかりとした学習を積み重ねてきた受験生であれば、4問全問正解したのではないだろうか。
もともとこの科目と密接にかかわっている、午前科目の「低所得者に対する支援と生活保護制度」と、「障害者に対する支援と障害者自立支援制度」における出題内容が、就労支援サービスの出題ではあまり関連性が見られなかったことから、(推測の域を出ないが)科目間で出題内容の調整をはかっているものではないだろうか。
なお問題数を考えると致し方ないのかもしれないが、その2つの科目を前提とした上での、雇用施策やその関連法、定番ともいえる障害者雇用促進法などの出題など、そのような分野からの出題がされなかったことは、特にこの科目の学習上いかがなものだろうか。無理を承知で言わせてもらえば、定番化しつつあった「労働法規」からの出題もなく(問題125で出題されてはいるが)、問題そのものは良問であっただけにそのような分野からの出題がなかったことは残念であった。
更生保護制度
例年、「更生保護制度の概要」からの出題が圧倒的に多く、特に制度の概要と保護観察が定番化しているので、その意味では今年もその傾向は踏襲されていた。しかも出題内容についてはまさに「教科書通り」の一言につきるような、オーソドックスな内容である、昨年のような制度の手続き面における細かい規定などの出題はなく、この前に科目の就労支援サービスと合わせて、しっかりと学習した受験生ならば、2科目合わせて8問全問正解という結果になった者も、相応数いたのではないだろうか。
特徴的な出題は無いというぐらいの定番のものばかりなのだが、あえて挙げるならやはり問150であろう。問題141が不適切問題となっただけに、少年審判の問題としては、知識としてぜひ知っておいてほしい内容の出題である。単に選択肢の中の名称を知っているだけではなく、その位置づけや具体的な手続きの流れの内容までおさえてなければ解答できない問題であり、選択肢の文章が長い方の問題ではあることに加えて、試験最後の問題なので、試験中はしっかりと選択肢を吟味する余裕はなかったのでないだろうか。そのため試験が終わった今だからこそ受験生に方々には、改めてもう一度読み直して誤り等を確認して頂きたいものである。