社会福祉士国家試験情報第26回 社会福祉士国家試験 科目別分析【共通】
科目別分析【共通科目】
人体の構造と機能及び疾病
出題項目に沿った標準的難易度の出題であった。これまでの国家試験でも頻回に出題されている分野からの出題であったからこそ、正しいものを選択する際に少々迷った問題があったのではないかと考えられる。
問題1老化に関する問題は、生理的老化と病的老化を確認した上で解答しなければ2又は5の解答で迷ったのではないか。問題2人体の部位と病変に関する設問も同様に5の脳死と植物状態の違いが判断できなければ誤答しやすい。問題4は筋委縮性側索硬化症の理解、問題5は認知症の基本的理解、問題6は発達障害に関する基本的理解と一定の学習ができていれば正答を導きやすい問題であった。
心理学理論と心理的支援
問題8マズロー(Maslow,A.)の動機又は欲求理論、問題9レスポデント条件づけとオペラント条件づけ、問題10集団の機能、問題11発達など、いずれも学習の中で経験してきた分野からの出題であった。赤マル福祉の模擬試験においても、欲求や集団、オペラント条件づけ、発達など繰り返し出題している問題で、基本的項目をいかに精度を上げて解答する力を求められた問題であった。問題14心理療法に関する問題は、ここ数年の試験で難易度の高い出題が続いたが、今回の出題は比較的標準的なものとなり、正答に行き着くことができた受験生も多かったのではないか。
社会理論と社会システム
出題に2つ答えを求めるものが1題あるが、全体の問題数は変わらず7問であった。社会理論と社会システムと言う科目の性質上、どうしても単語等にわからないもの、理論等が難しいものが多く、難題が含まれるのがこの科目の特徴ではあるが、前回との比較だけでいえば、かなり社会福祉士国家試験の「社会学」らしい問題であったと言えるだろう。 内容としては、人名と理論、都市化、官僚制、貧困調査など社会学の中でも比較的「聴きなれた」ものが多く、正解を導きだすのは難しくても、問題自体がわからないものは多くないと思う。
難しいものとするならば、社会的行為に関する問題があげられる。この問題もワークブック等で対応はできるものの、コミュニケーション的行為の単語を知らなければ手ごわいと感じるかもしれない。
今後の対策としては、今回のような問題が続くのか、前回のような奇をてらう問題が出されるのかによっても異なるが、純粋な社会学の勉強は必要となることは間違いないだろう。
現代社会と福祉
前回の問題との比較でいくと、かなりオーソドックスな社会福祉の問題に「戻った」という表現が最も適切だと思う。今回の問題は、社会的包摂や準市場、在留外国人、女性のような問題が出題された。大変語弊がある言い方ではあるが、大学の講義や教科書で必ず触れられる部分であるため、緊張感という要素がなければ、おそらく解答者全員が問題の意味を把握することができるのではないだろうか。言い換えれば、前回は問題の意味や意図が出題者のみがわかるようなレベルであったということだ。
今回の問題を見る限り、2つ選ぶ問題もなく、出題も基本的単語と社会情勢に合わせた社会福祉施策の出題が多いため、前々回の過去問やワークブックを中心とした対策が最も適切な勉強方法であったといえる。また3つの虐待の防止法が成立したこともふまえ、最新の動向が出題されやすいという国家試験の特徴もそのままであった。
その中でも介護保険や、東日本大震災を絡めた選択肢もあり、まさに「現代社会と福祉」の問題であった。ただ、やはり社会福祉原論の時とは違い、時事問題を含めた選択肢が多く見られ、その点は今後の受験対策においても考え方を新たにしなければならないと感じる。
地域福祉の理論と方法
今年の出題内容は、近年確立された制度や考え方を問うものはなく、地域福祉の発展過程、社会福祉協議会、民生委員、福祉ニーズの把握方法、福祉サービスの評価といった、例年出題されている項目であり、特筆するような問題は見受けられなかった。事例についても社会福祉協議会の福祉活動専門員について昨年同様に2問出題されているが、選択肢の内容から容易に正解を導き出せる内容であり非常に易しかった。出題傾向の予測はできていたが、問題35・問題39など割合や比率を問う内容で、概要を理解しているだけでは正解を絞り込めない問題であった。全体としてはオーソドックスな出題であり、選択肢の内容も絞り込みやすく、昨年に比べて得点しやすい内容であったのではないかと思われる。
福祉行財政と福祉計画
福祉計画に関する問題が4問、時事問題が2問、市町村の事務に関する問題が1問といった出題内容であった。頻出であった地方財政白書からの出題はなく、代わりに時事問題が2問出題されており、予想を外された受験生も多かったと思われる。
個人的にも、今年度大幅な試験委員の変更があったため、出題基準に基づくポピュラーな問題が増えると期待していたが、福祉行政の組織及び団体の役割、福祉行政における専門職の役割等の基本的な問題は出題されなかった。なお、ここ数年は福祉計画に関する出題の頻度が増えており、根拠法に基づく策定、福祉行財政をリンクさせた財源との関係、計画期間、実施状況の評価のあり方等、多面的な知識を問う傾向が窺える。 今年度の問題の難易度としては、ほぼ例年通りといえよう。問題42の市町村の権限に属する事務、問題45の福祉計画と事業の財源、問題47の福祉計画の実施状況の評価・監視は、応用問題といえる。テキストの内容で正解を導ける問題は、問題46の福祉計画の策定、問題48の福祉計画の期間の2問。また、問題43の消費税に関する設問と、問題44の社会保障・税一体改革に関する時事問題は比較的易しく、新聞等に日ごろから目を通しておけば容易に答えを導ける問題であった。したがって、一年を通して、しっかりと受験対策に取り組んできた受験生は、7問中4問までは正解できたと思われる。
社会保障
社会保障制度の課題でもある、わが国の高齢化についての設問内容は、新聞などでも大きく取り上げられた内容なので容易に解答が導き出せるであろう。社会保障給付費については、出題の可能性が極めて高かったので内容的には平易に感じた。(問題49、問題51)今後も少子高齢化を絡めた数値的出題は考えられ、さらに学びを深めておきたい。問題50については、歴史であるが、過去問より学びを深めていれば、比較的容易に解答が導き出せるであろう。問題52~問題55については、社会情勢から実践的知識を求める傾向には変化がない。出題の内容について、丸暗記も必要ではあるが、各制度がどのような背景で誕生、経過していき、現在では、どのように具体的に運用しているかを目的、内容、対象者別に整理していくことが重要である。
全体的にみると、問題は五者択一であり選択肢の内容も難易度は高くない。普段より社会保障に興味を持ちながら学び、何が重要であるか、ポイントや意識を明確にもち、地道に取り組んだ内容で確実に得点は可能である。
障害者に対する支援と障害者自立支援制度
特筆して難易度の高い問題はなく、参考書やテキストの範囲で対応できる問題が多く見受けられた。事例問題は実践力が問われ、よりケアマネジメントの要素を強く感じた。現場を経験したことのない学生などにとっては難問と思われたかもしれない。
また障害者の定義に難病が含まれたこと、地域生活支援事業の追加(障害者に対する理解を深めるための 研修や啓発を行う事業、意思疎通支援を行う者を養成する事業等)に関する設問が無かったことはいささか拍子抜けだった。ここで出題された問題62の「障害者雇用促進法」に関する問題は、今後施行が予定されている改正を踏まえた問題も含まれていた。特に法定雇用率に関しては原則5年ごとに見直しが図られ、精神障害者保健福祉手帳所持者も算定の対象に今後なることを忘れないでほしい。
低所得者に対する支援と生活保護制度
昨年の意表を突いた内容から一転し、全7問ともオーソドックスな出題テーマである。生活保護の動向(問題63)及び生活保護の原理原則(問題64)の2大テーマに関する出題も復活した。
各選択肢の内容も、一部に奇をてらった昨年のようなものは姿を消し、基礎から中級レベル程度の素直な内容の選択肢が多い。過去問やワークブックでしっかり勉強した受験生にとっては、十分に対応可能だったはずである。解答に迷うとしても2択までは絞り込める問題が多く、例年に比べ平均点も高いのではないかと予想される。
問題65の各扶助の内容を問う出題は、一部にやや細かいきらいはあるが、テキストを読み込んでいれば正解までたどり着けたであろう。問題68(自立支援プログラムによる支援の進め方)は、まさに現場の活動に視点を当てた出題で好感が持てる。
保健医療サービス
事例問題2問を含む出題。問題72は正しいものを2つ選択する出題であった。問題71国民医療費の概況からの出題、問題72診療報酬制度に関する出題、問題73医療提供施設の理解を問う出題、問題75医療ソーシャルワーカーの業務指針からの出題があり、出題した分野も求められている知識や選択肢も標準的で、事例問題2問も同様に正答を導きやすい内容であった。問題74は障害者総合支援法と保健医療サービスの理解として、自立支援医療を中心に出題された。公費負担医療である自立支援医療の枠組みを理解している上で、さらにその制度を利用した場合の自己負担も理解していなければ、この問題の正答を導き出せない難易度の高い問題であった。
権利擁護と成年後見制度
今年の出題内容は、参政権、介護保険事業者の法的義務、不服申し立て、成年後見制度概要、任意後見制度、障害者虐待について出題されており、テキストなどで理解をしていれば十分対応できる内容であった。問題77参政権については、成年被後見人の参政権に関する話題が取り上げられたこともあり、出題を予想していた人も多かったのではないかと思う。今年の出題傾向で目をひくところは、成年後見人に関連した問題が多かったことであり、任意後見も含めると4問出題されている。今後は、例年出題される法律問題に関しても、成年後見人の立場ではどうなのか、など成年後見制度と照らし合わせて勉強していく必要があると思われる。問題79・問題83のように、市町村・都道府県・関係機関における権限の違いを理解していなければ、正解を絞り込めない問題が権利擁護や法律問題を解答する上では必要であり、今後もこのような出題傾向は続くと思われる。全体としては選択肢から正解を絞り込みやすく、昨年に比べて得点しやすい内容であったのではないかと思われる。