介護福祉士国家試験情報第35回 介護福祉士国家試験 科目別分析【午前】

科目別分析【午前科目】

領域 人間と社会

人間の尊厳と自立

 出題数は、従来通り2問の出題であった。各大項目から1問ずつ出題されている。1問目は、「QOL(生活の質)の考え方」からQOLを高めるための介護実践についての出題であった。QOLとは、自分らしい生活を送るという精神面を含めた生活全体の豊かさをとらえる概念である。QOLについて理解できていれば容易に解答できると思われる。
 もう1問は短文事例で、「尊厳の保持と自立」の項目より自己決定について問う問題であった。自己決定は、個別援助の原則の1つであり利用者が自らの意思で自らの方向を決定していくことであり、介護福祉職は利用者が自己決定できるよう支援していくことが重要である。利用者が自己決定するためには何が必要であるかという視点で考えることで、容易に解答できる設問であった。
 人間の尊厳と自立の科目においては、日本介護福祉士会倫理綱領にも書かれている利用者本位、自立支援についての理解について問われており、介護福祉士として必須である理念や概念の理解が重要であると考える。

分析: 一般社団法人 千葉県介護福祉士会

人間関係とコミュニケーション

 本科目は、介護福祉士養成課程における教育カリキュラム変更の影響もあってか、例年の2問から4問に出題数が増えた。なお、4問中3問が短文事例問題であり、実際の介護現場に即した内容であった。
 社会福祉振興・試験センターが公表している出題基準の大項目に照らし合わせてみると、「1 人間関係の形成とコミュニケーションの基礎」からは【問題3】のストレスコーピング、【問題4】の自己開示、ラポールの形成に関する内容の2問が出題された。自己開示に関する問題はこれまでも時折出題されていたが、ストレスコーピングに関する問題はあまり出題されたことのない内容だったので、とまどった受験生もいたかもしれない。他者との良好な人間関係を形成するためには、自分自身が健康的である必要がある。ストレスへの対処方法を理解しておくことは介護福祉士として、また、一社会人として求められることである。
 そして、今年度より新たに加えられた大項目である「2 チームマネジメント」からは、【問題5】のPDCAサイクル、【問題6】のOJTに関する問題が出題された。新たに加えられた範囲からの出題であったため、準備不足の受験生には難問であっただろう。しかし、介護現場でよく使用される用語であるため、今回の試験を通じて、改めて確認しておいてほしい。
 出題基準の変更に伴い、今後、コミュニケーション技術の科目とのすみ分けが進むことが予測される。人間関係の形成のみならず、チームや組織に関する知識の習得が不可欠となる。

分析: 一般社団法人 千葉県介護福祉士会

社会の理解

 今年度の問題数も例年通り12問の設題であった。出題内容を出題基準に照らし見てみると、昨年度は出題基準から満遍なく出題されたが、今年度は「社会と生活のしくみ」からの出題が見られなかった。また、昨年は3問出題されていた「高齢者と介護保険制度」と「障害者福祉と障害者保健福祉制度」からの出題は、それぞれ2問(10事例,17事例)と4問(11事例,12,13,14)と、障害分野へやや偏りが見られる出題であった。他は「地域共生社会の実現に向けた制度や施策」2問(7,8)、「社会保障制度」1問(9)、「介護実践に関連する諸制度」からは昨年と同数の3問(15,16,18)であった。問題9は1950年に出された勧告からの出題で、これまでの出題からは見られないが、各設問の年代を理解していれば正解を導きだせる問題であった。問題11の合理的配慮からの出題は、聴覚障害の特性から正解が導き出せる。問題12の『障害者基本法』の出題は、過去第28回の試験で、また問題18の『生活困窮者自立支援法』は第29回の試験で出題されている。問題17は母親が65歳ということを考えれば地域包括支援センターが結びつくであろう。問題全体通して基本的な内容が問われており、過去の問題を丁寧に解いていれば解答できた問題である。

分析: 一般社団法人 千葉県介護福祉士会

領域 こころとからだのしくみ

こころとからだのしくみ

 問題数は例年通り12問。第34回では短文事例問題が5問であったが、今回は2問であった。出題基準の大項目に照らして見てみると、「1.こころとからだのしくみI」では、【問題19】有意義な日々を過ごしているHさんの老齢期の性格類型が問われ、【問題20】大脳の後頭葉にある機能局在として人体の構造と機能の知識が問われた。「2.こころとからだのしくみⅡ」では、ア.移動に関連して【問題21】立位保持のための抗重力筋、【問題22】廃用症候群で起こる可能性のある症状・状態、【問題23】褥瘡の好発部位の3問が問われた。イ.身じたくに関連しては【問題24】口臭の原因になりやすい口腔の状態が問われ、ウ.食事に関連しては【問題25】Jさんの食事時の状況から誤嚥をしないようにするための対応、【問題26】誤嚥しやすい高齢者の脱水予防に関する知識が問われた。オ.排泄に関連しては【問題27】健康な成人の便の生成過程の基礎知識が問われ、カ.睡眠に関連して【問題28】高齢者の睡眠薬使用に関する知識が問われた。キ.人生の最終段階のケアに関連しては【問題29】大切な人を亡くした後にみられるグリーフ(悲嘆)の身体反応に関する知識、【問題30】死が近づいているときの身体変化の知識の2問が問われた。
 科目全体では比較的平易な設問であり、今回、入浴に関連した出題はなかったものの、出題基準に沿ってまんべんなく勉強していた受験者や「赤マル福祉:過去問トレーニング/Web模擬試験」の問題解説で知識を深めていた受験者にとっては、かなり高得点が得られたと思われる。いずれにしても、介護職チームにおいて中核的な役割を担うことが求められている介護福祉士には、多様化・複雑化する介護ニーズに対応できる的確な知識と実践力が求められている。

分析: 一般社団法人 千葉県介護福祉士会

発達と老化の理解

 新出題基準により午後最初から午前の途中へ今年度より変更となった科目。昨年に比べてグッと難易度が高くなった印象。問題31はイラスト付きで過去に出題された「社会的参照」に関する応用問題。問題32はコールバーグの道徳判断において最も高次な発達が普遍的な倫理的原理志向であるという知識が問われた難問。問題33は子どもの体重が生後3~4か月で約2倍となる乳幼児の身体的な発達知識問題。問題34は死別へのコーピングに関する二重課程モデルで喪失体験後の悲嘆への支援が問われたやや易しい問題。問題35は加齢の影響を受けにくい「意味記憶」の平易な頻出問題。問題36は「前立腺肥大症」の尿の濃縮力について問われた知識問題。問題37は女性が罹患しやすい「変形性膝関節症」の平易な頻出問題。問題38は体重減少など「脱水症」の症状に関する平易な頻出問題であった。総じて今年度は過去問に関連した教科書の内容までの理解がないと6問以上の得点は厳しく受験生泣かせの科目だったのではなかろうか。

分析: 一般社団法人 千葉県介護福祉士会

認知症の理解

 問題数は昨年同様、短文事例2問を含む10問であったが、時間帯が午後から午前に変更となった。出題基準からは、ほぼまんべんなく出題されたが、今回は特に「4 連携と協働」からの設問が【問題45】認知症サポーター、【問題46】認知症ケアパス、【問題47】認知症ライフサポートモデルと3問続き、例年よりは出題数が多い傾向が見られた。【問題39】は「1 認知症を取り巻く状況」から認知症施策推進大網の5つの柱についての設問。新オレンジプランとの違いなどを理解していないと難しかったと思われる。【問題43】の短文事例の日常生活自立支援事業の設問も含め、施策関連は重要となるためしっかり押さえておく必要がある。例年出題数が多い「2 認知症の医学的・心理的側面からの基礎的理解」からの出題については、【問題40】見当識障害、【問題41】物忘れ妄想、【問題42】慢性硬膜下血腫、【問題44】ユマニチュード、【問題48】記憶と、どれも基礎的知識を学んでいれば十分に解答を導き出せる設問であった。この科目は、深掘りよりも偏らない幅広い知識が必要となる。

分析: 一般社団法人 千葉県介護福祉士会

障害の理解

 出題数は例年通り10問。科目全体の出題内容については、社会福祉振興・試験センターが示す出題基準と照らし合わせると、「1 障害の基礎的理解」からは、障害者福祉の基本理念として【問題49】ストレングス、【問題50】自立生活運動(IL運動)、障害者福祉の現状と施策として【問題51】障害者虐待防止法が問われた。「2 障害の医学的・心理的側面の基礎的理解」からは、障害のある人の心理として【問題52】障害受容モデル、障害の理解として【問題53】四肢麻痺を伴う疾患や外傷、【問題54】学習障害の特徴、【問題55】脊髄小脳変性症にみられる症状が問われ、「3 障害のある人の生活と障害の特性に応じた支援」からは【問題56】統合失調症の利用者への支援の留意点が問われた。「4 連携と協働」からは、地域におけるサポート体制として【問題57】自立支援協議会の機能・役割、多職種連携として【問題58】関係機関や他の福祉職、保健医療職が果たす役割が問われた。
 本科目は、障害に関する概念や基本理念、法律に加え、障害のある人の心理や障害に関する医学的な知識など幅広い分野から出題されるため、学習範囲が多岐に渡る。ただし、他の科目と重複する分野も多く含まれるため、それらを関連づけて学習すると効率的であるとともに、理解が深まると考える。
 今回出題された問題の内容は、全て過去の国家試験で取り上げられたことのあるトピックであるため、過去問対策にしっかり取り組み受験に臨むことのできた受験生は、得点を伸ばすことができたと思われる。

分析: 一般社団法人 千葉県介護福祉士会

領域 医療的ケア

医療的ケア

 問題数は例年通り5問にて短文事例1問であった。出題範囲も昨年までと同様に出題基準の大項目を網羅している。「生活保持と感染予防」から消毒と滅菌に関する問題が1問、「呼吸のしくみとはたらき」から成人の呼吸状態に関する問題が1問、「喀痰吸引の基礎知識・実施手順」から喀痰吸引実施前の手順に関する問題が1問、「胃ろうによる経管栄養に関する問題」は2問、その内1問は短文事例にて経管栄養実施に起こるトラブルと対応についてであった。
 出題傾向としては関係法令に基づいて安全な喀痰吸引、経管栄養の実施に向けた実践的な内容を問う問題で構成されていた.。難易度としては安全に実施するために必要な知識を抑えておけば、昨年より若干優しく作成されていた。喀痰吸引、経管栄養はリスクが高いケアになるため、実施上の規則・手順・観察事項等、誤ることが許されない内容が多いので丁寧に学習しておく必要がある。

分析: 一般社団法人 千葉県介護福祉士会