共通科目 |
分析 |
人体の構造と
機能及び疾病 |
例年出題されている各出題項目に沿った出題であった。とりわけ問題3のICFに関する出題、問題5の高齢者の病態や疾病に関する出題、問題6の食中毒に関する出題、問題7のDSM—5にからの出題については、過去問題でも繰り返し出題された問題であるため、学習の過程で過去問題を経た受験生にとっては、平易に感じる問題であった。問題1の発達に関する出題は、これまでの出題頻度は少ないものの、この科目における出題項目の最初にあるものであるため、解答の手がかりが全く掴めなかった受験生は少なかったと考えられる。問題2については、人体の部位と疾病、病態といった複合的な問題であるため、踵や仰臥位という言葉、対麻痺という言葉、誤飲、上腕骨、吐血などの言葉が理解できれば容易に解答を絞り込める。問題4に関しては、平成25年12月のアルコール健康障害対策基本法が成立(平成26年6月施行)したことに関連した出題であると考えられる。
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心理学理論と
心理的支援 |
共通科目全般的に比較的容易な問題が続いた今回の試験において、標準的と言える難易度の出題であった。設問で問われている問題文の分野は小項目に該当するような項目であるにもかかわらず、選択肢であげられている一つひとつの選択肢は、丁寧に読み進んでいけば正答に辿り着けるように作成されている。問題9の学習の形成における洞察学習は、事象を検証できれば正答できるはずである。問題13開かれた質問の例や、問題14に出題された心理療法に関する出題も、設問を読んだ時点では迷いが生まれるかもしれないが、検証によって解答できる。昨年度に出題された、面接場面事例に類する問題は、問題13のような形態で出題され、今後も継続的に出題される可能性が高い。
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社会理論と
社会システム |
多くの科目の中で比較的難易度が安定して出題される傾向にある当科目であるが、本年も例年同様にある程度予測が立つ出題であったと言える。他科目でも出題の可能性が強調されていた国勢調査について問題17で出題され、問題18では日本の人口動向に関する出題であり、さらに高齢者人口比率を問うものであったため、容易に正答できた受験生が多かったであろう。問題19の社会集団に関する出題と、問題20の社会的ジレンマに関する出題ともに、平易な内容で受験生を迷わせるための奇をてらう選択肢も混ざっていないものであった。一方で、問題21の社会問題のとらえ方の中で、構築主義的アプローチを選択する問題は解答に迷った受験生が多かったのではいだろうか。
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現代社会と福祉 |
例年難問が多い科目の1つであるが、本年度については出題基準に沿った内容をバランスよく出題することで、全く得点できないような難問はなく、標準的なテキストレベルの内容をしっかり学習してきた受験生にとっては、良問ぞろいの出題であったと思われる。単なる丸暗記ではなく、時代背景を踏まえた福祉の歴史的発展を学んだ上で体系的な学習をしてきた受験生にとっては、易しく感じるぐらいの内容だったのではないだろうか。概念の理解さえしっかりしていれば容易に正答がわかるものや、重要な用語の意味さえきちんとつかめていれば、消去法でなくてもしっかりと正解の選択肢を選ぶことができる、まさに「基本的」といえるような出題がめだった。
個別の出題については、統計がらみの出題が問26~28までなされた。この点は今年の特徴ではないだろうか。また制度系の出題としては、問30は専門科目の「高齢者」での出題や、問31などは共通科目の「低所得者」などで出題されてもおかしくない内容である。やはりこの科目については、メインの福祉政策分野以外では、他科目の内容も含めた横断的な学習が求められることの証左であろう。
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地域福祉の
理論と方法 |
問題数もさることながら、例年出題範囲が広く難易度が高い傾向にあった『地域福祉の理論と方法』であるが、今年は比較的だが理論系の出題が減り、制度系の出題が増した分、選択肢の正答をみつけやすい内容ではなかったかと思われる。しかしながら決して問題が易しいというわけではなく、選択肢の内容をよく読み、しっかりとした知識で確実に文章の内容を(文意を)正確に把握しないと、うっかりとしたところで誤りの選択肢を選んでしまうような、丸暗記だけでは対応が困難な、「考えさせる」設問が目についた。その意味では、受験生個々に得点が伸びた者とそうではない者に二極化したのではないだろうか。
個別の出題としては、昨年は人物・業績的な理論に関する出題が見られなかった分、今年は問32及び33と、それなりに出題された。また近年の出題の傾向としては、制度化した地域福祉からの出題が多くなっているようであるが、問35や36など地域福祉固有の内容ではなく、他科目で問われてもおかしくないようなものも見られた。この点でも従来の地域福祉の範囲を超えた分野からの出題によって、解答の出来不出来が分かれたのではないだろうか。総じていえば、今年の科目の特徴は、受験生の「解答力」を試す、力量が求められる出題内容であった。
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福祉行財政と
福祉計画 |
福祉行財政に関する問題が4問、福祉計画に関する問題が3問と昨年同様の配分の出題となっている。問題42の介護保険の保険料に関する出題は、27年度の介護保険法の改正を知っていれば、5が正解であると必然的に解答を導くことができたと思う。問題43の不服申し立てに関する出題は、介護保険法に関する設問が2つ用意されており、過去問に取り組んできた受験生は2が正しいとすぐに分かったはずだ。問題44の福祉事務所に関する出題も、テキストに必ず記載されている基本的な設問のみで4が正しいと答えられる。問題45の地方財政白書の出題も、重箱の隅をつつくような設問はなく、過去問をしっかりとこなしておけば、正解が2であるとすぐに分かったはずだ。問題46は市町村地域福祉計画と地域福祉活動計画に関する併せ技的な問題だが、定番として出題されている地域福祉計画に対して、しっかりと理解できていれば消去法により正解が1であると答えられる。問題47の福祉計画に関する法定事項に関する出題は、市町村の福祉計画に関する基本事項について問われており、テキストを読んでおけば応えられるレベルの問題となっている。正解は市町村障害福祉計画に関する設問の3が正しい。問題48は地域福祉計画策定状況等の調査結果からの出題だが、ここ数年間における地域福祉計画の大きな推移はないため、過去問をこなしてきた受験生は、正解が4であると答えられたと思う。この科目は、従来、非常に難解で得点しにくいといわれてきたが、今年度の内容を見る限りベーシックな受験学習に取り組めば、確実に得点できる出題へとシフトしたと思われる。奇をてらった設問や、最新の統計データを理解できていなければ解くことができない問題は、一切出題されていない。努力すれば、必ず報われる内容であったと思う。
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社会保障 |
社会保険が出題の中心になっているのは毎回の出題の通り、今年も例年通りの出題分野(傾向)であった。特にこの科目の特徴としては社会保障制度の体系や具体的な内容について問われることが多く、細かい制度の手続き部分なども出題されることもあり、今回も全体的に難度が高い出題内容であった。なお今年は事例問題が出題されなかったことは、19科目の新試験制度になってから必ず出題されていただけに、この点については以外だった。
内容については、各種統計、国民年金、労災保険、健康保険などの分野から出題されたが、社会保険分野からは、年金保険、医療保険、労災保険がそれぞれ1問ずつ出題されたが、雇用保険からの出題がなかった。また介護保険については出題そのものがなかった。問題数から考えると5つの社会保険分野から万遍なく出題するのは難しいのかもしれないが、学習項目の重要性から考えれば残念なことである。
また諸外国の社会保障制度や、社会保障制度全般に対する原理論的な問題など、難問化しやすいテーマからの出題はなかったが、いたずらに出題分野が広がることは今回もなく、問52の出題などで動揺した受験生もそれなりにいたかもしれないが、それ以外では明らかに易しい出題もあり、例年通りの出題傾向と言えるのではないだろうか。
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障害者に対する支援と
障害者自立支援制度 |
障害者基本法や障害者解消法など、障害分野を理解するためには必須となる内容からの出題や、障害者総合支援法の福祉サービスを中心とした出題など、出題内容は十分に予想されるものばかりであった。ただ過去の出題実績からの比較から言えることは、今年は障害者総合支援法からの出題ばかりが目立ち、障害者基本法の出題も複数の設問で問われ、問57でICFや、問58で障害者福祉の歴史的展開(発展過程)の出題があるものの、出題に広がりが見られなかった。例えば昨年の問題と比較すると、障害者基本法や障害者差別解消法、障害者総合支援法は無論、虐待対応状況調査や、精神科入院形態としての医療保護入院の出題など、障害者福祉を理解する上で大事な内容を広範囲ながらもバランス良く出題がなされていた。過去の出題が例年バランスよかっただけに、今年に限っては出題全体がかなり狭い範囲の分野からになってしまったことは、非常に残念なことであった。
なお個々の設問そのものは難問・奇問の類いが見られず、良問揃いであった。出題も十分に予想できる内容ばかりだったので、きちんと受験対策としての学習をした上で試験に臨んだ受験生が、しっかりと得点することができる、試験というフィルターの役割を担うという意味でも、良い出題であったと思われる。
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低所得者に対する
支援と生活保護制度 |
一部の問題で細かい点を問う内容があったため、多少難しく感じる部分もあったかもしれないが、全体としては例年通り、生活保護法中心の標準的な問題であった。この科目については、近年の社会福祉制度全般における制度改革のなかでは比較的変動が少ないため、対策が立てやすい科目である。分量は少なかったものの、改正生活保護法に関する出題や生活困窮者自立支援法の内容など、昨年に出題がなかったため今年は出題されることが大きく予想が出来たので、この分野をしっかりと学習してきた受験生も多かったのではないだろうか。その点では例年以上に対策が立てやすく、まさに狙い通りの出題であった。
この科目については、他の科目と比較して出題のボリュームが最も少ないことに加え、出題傾向も安定していることや、生活保護法から中心的に出題され、しかも全体にわたって満遍なく出題されていることなどから、午前科目の中では最も得点しやすい科目といえる。試験での合格を考えると必ず得点源とする必要があり、それは他の科目と比較すると十分に可能なことである。試験対策上、時間をかければ必ず攻略できる科目であることは間違いない。
よって裏を返せば、この科目の出来がすなわち試験全体の出来を表す、リトマス的な科目と見ることができる。一例をあげれば問題66などは第22回試験の問題61と事例文などがほぼ同じ内容であり、この点でもしっかりとした学習をした受験生が容易に正解できることから、今年もその役割を果たすことに、非常に参考となる、良い出題内容であった。
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保健医療サービス |
全7問出題項目に沿った出題であり、出題されている設問内容が絞り易い分、一つひとつの問題をしっかりと考察しなければ正答を誤る可能性がある。問題71の国民医療費に関する問題は、65歳以上と75歳以上の割合を問う問題であり非常にオーソドックスな出題である。問題72の診療報酬制度に関する出題、問題73の医療法に関する出題とも、基本的な試験に対応できる基礎的な知識で正答を得ることが出来た。問題75と問題76はいづれも択2の出題であったが、医療ソーシャルワーカー業務指針と回復期リハビリテーションからの復職支援に関する出題で、出題の意図が読み取れていれば正答を得やすい。毎年続けて出題されている、医療関連専門職の職能理解については、問題70において理学療法士、作業療法士、言語聴覚士に関する出題であったが、この設問も前年出題と比較して平易な問題であったと言える。
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権利擁護と
成年後見制度 |
難易度は高いものの、例年は出題基準に沿った形での、安定した出題数のバランスであったにもかかわらず、今年は出題の大部分が成年後見制度からであり、過去の出題実績と比較すると明らかに偏りが見られた。問77の行政事件訴訟法や、問79の親権以外はすべて成年後見制度からの出題であり、出題内容についてはもう少し全体のバランスに配慮をしたものにならなかったのかと、非常に残念に思う。
なお出題内容そのものについては、その成年後見制度の部分は制度全般にわたるテキストレベルのオーソドックスな内容であり、おなじみの出題ともいえる「成年後見関係事件の概況」からの出題もされ、この点では解答にあたり、受験生にとってはかなり気が楽だったと思われる。この科目の近年の出題は一般的に難度が高く、しかも選択肢の中にはかなり細かい点を問うものもあり、午前科目の最後であるので試験時間終了近くで疲弊している受験生としては、最後の最後で苦戦を強いられる者が続出していたのがこの科目であった。今年はその苦労がかなり緩和されたのではないだろうか。
特徴的な傾向としては、旧試験科目の「法学」の頃には定番の出題であった、行政事件訴訟法が久方ぶりに出題されたことである。行政法の分野は確かに新試験制度以降においても第24回以降から連続して出題されているが、ここまでの内容は新試験制度では初めてのことである。 但し個別の問題に目をむけてみれば、繰り返しになるが成年後見制度関係は例年に比べれば得点がしやすく、ここ数年の過去の出題内容と総合的に比較すると、全体としては、今年はむしろ易しい方の出題内容と言える。最後まであきらめず頑張った受験生は、ここで最後の最後で合否をわけるぐらいの点数の上積みができたのではないだろうか。
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