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第20回 精神保健福祉士国家試験 科目別分析【共通科目】

共通科目 分析
人体の構造と
機能及び疾病
試験科目の1番目である科目の難易度によって、その年の難易度が透けて見える人体の構造及び疾病科目であるが、今試験の出題内容は容易に正答を導き出せる難易度であった。出題項目については項目配分が均等であり、さらに各問の設問配置にも受験生を惑わせる組み合わせとしておらず、出題方法についても素直な組み合わせで、正答を暈すことなく出題されている。問題3の世界保健機構(WHO)のアルマ・アタ宣言、問題5の肢体不自由となる疾患の脊髄損傷と排尿障害、問題6精神疾患の診断・統計マニュアル(DSM-5)からの出題については、基本項目の整理だけでも正答を導き出せる問題であった。唯一過去問題と違っていた点は、最も適切なものを1つ選択させる問題が3問出題されていたことであった。
心理学理論と
心理的支援
安定した出題項目から出題されるこの科目において、今試験においてはさらに安定した出題項目からの出題内容であり、難易度も平易なものであった。頻出である問題8の原因帰属の内的帰属の出題、問題9のオペラント条件づけが出題されたことで、午前科目2科目であるこの科目で、受験生が試験全体の勢いを勝ち得た受験生が多かったと推測される。問題11の集団における行動も設問から推察して正答に近づくことができ、さらには、カウンセリングや心理療法についての出題については、例年難易度の高い出題傾向がみられるが、今試験の出題は容易に正答が導き出せるものであった。前回試験までの実践力を試される出題内容に変わり、基礎的な項目に戻った出題傾向である。
社会理論と
社会システム
近年の出題では人名と理論の理解を問うものが減少しているが、今試験においてはウェルマンの「コミュニティ開放論」のみで、他2問は「平成28年国民生活基礎調査」からの出題、「平成28年における少年非行、児童虐待及び児童の性的搾取等の状況について」からの出題であり、さらには問題16日本の労働市場に関する出題で、より現代の社会を指標として理解していることが求められる出題内容であった。一方で問題19の役割からの出題、問題20の共有地の悲劇に関する出題は、この科目の基礎的学習の中で学ばれる項目で、基本的な知識も問われていた。人名と理論が多く学習されるこの科目であるが、基礎的学習と社会の変化をパラレルで学習する必要がある。
現代社会と福祉 前回試験で多く出題されていた調査、報告からの出題数が減り、例年頻出項目からの出題が中心となった今試験の出題内容であった。問題22のロールズが論じた「正義」に関する問題、問題24の日本の福祉制度に関する歴史に関する問題、問題27の各国の福祉改革に関する問題、問題28の貧困に関する人名と理論の問題、問題31の戦前の方面委員制度等に関する問題が続いて出題され、福祉そのものを捉えて各国の福祉施策を理解していることに重点が置かれていた。これらの知識は基礎学習と過去問題からの解答学習で得られやすいものであったが、前回の出題傾向を意識した場合は、少々的を外された印象を受けたかもしれない。基礎的な学習が正答に近づくことができたといった点では、今回の他科目同様の出題傾向であった。
地域福祉の
理論と方法
ここ数年は出題範囲も広く、比較的難易度が高い傾向にあったが、今年は社会福祉法を中心として出題基準に沿った定番の問題が多く、受験生としては比較的取り組みやすかったと思われる。なお出題テーマからすると一見やさしそうに思えるが、個々の選択肢の内容などを良く見ると、一部の出題では正答を導くのに悩まされる内容も見受けられ、その点では受験生の得点率に差が出てくると思われる。 出題のテーマを見ると、問題32の社協の歴史、問題34の民生委員・児童、問題35の社会福祉法の各種規定、問題38で地域福祉の組織・団体など出題されている。内容としては過去問を中心にしっかりと学習を進めた受験生は、確実に得点に結びついたのではないだろうか。また今年は問題37と問題40で、事例問題が2問であった。昨年は1問であったが、過去を振り返れば2問の方が定番であり、こちらも得点のしやすい平易な内容であった。 以上のことから、最初に問題を見ても動揺するような出題もなく、解答に時間がかかるような、難度が高い部類に入る出題も総じて見受けられないことから、確実に得点が見込まれる問題を取りこぼしなく正答してゆけたか受験生は、かなりの点数の伸びが期待できたと思われる。
福祉行財政と
福祉計画
過去問をベースとした、王道の受験対策の準備をして臨んだ受験生は、比較的やさしく感じられた問題が多かったと思われる。 問題42は地方公共団体の事務に関する久しぶりの出題となった。生活保護の決定事務が第1号法定受託事務で、助言と援助業務が自治事務といった整理ができていれば、悩まずに正解できたと思われる。問題43は昨年出題されなかった「地方財政の状況」に関する問題であった。民生費だけでなく、特別会計事業を入れ込んだ出題であったため、戸惑った受験生が多かったと思われる。問題44は過去に何度となく出題されている国の費用負担に関するものであった。こちらも、生活保護費の4分の3が国の負担であることは周知のとおりであり、サービス問題といえる。法定機関に関する問題45も、過去問に取り組んできた受験生なら、身体障害者更生相談所が都道府県に必置の機関であるとすぐに答えられたはずだ。問題46では珍しく福祉計画における厚生労働大臣の役割が問われた。都道府県・市町村における役割の出題が過去には多く見られたため、意表を突かれた感はある。しかし、体系的に福祉計画の役割をしっかりと整理して学習に取り組んでいれば正解できたはずだ。問題47は福祉計画の計画期間に関するオーソドックスな問題であり、かなりの受験生が正解できたと思われる。問題48の福祉計画の内容をとう問題やや難易度が高いものの、各福祉計画の意図することが理解できていれば、二択までに正解を絞り込むことはできたと思う。全体を通して言えることは、テキストを中心とした学習をしておけば、ほぼ確実に正解できる問題が飛躍的に増えてきたといえる。
社会保障 社会保険制度が出題の中心になっているのは、この科目の毎回の特徴であり、事例問題での出題も含めて、今回もその傾向は踏襲されていた。その出題の傾向はわかるものの、社会保険制度の体系や具体的な手続き内容についてまで問われることが多いため、苦手意識とあいまって例年受験生が苦労する科目の1つであり、今回も全体的には難度は高めの出題であった。 内容としては社会保険以外の分野として厚生労働白書や社会保障費用統計などの分野からの出題がなされたが、特徴的なのは問題55の児童扶養手当であろう。児童手当は過去にも多くの出題があるが、この科目での出題は大変珍しい。なおその点以外では、分野出題内容とも特筆すべき事項もないくらい「例年通り」の内容で、事例問題の文章量も含めて、おおむね妥当な出題量ではないだろうか。 なお問題53については他の選択肢が明確に誤りであるので選択肢3が正解になるが、「療養の給付」は事例内容からすると、法律上の正式名称は「療養補償給付」である(問題文については療養に関する保険給付の一般的な意味で「療養の給付」と説明しているか、健康保険法や国民健康保険法の「療養の給付」のどちらかの意味であろう)。この点を厳密に考えれば、問題53については正解なしの可能性も考えられる。
障害者に対する支援と
障害者自立支援制度
最初にこの科目に取り組み、順番通りに問題56を見た受験生は、障害者スポーツの出題で面食らったかもしれないが、問題57以降は、障害者総合支援法を中心に、例年通りの福祉サービスを中心とした出題であったため、それ以降は落ち着いて問題に取り組めたのではないだろうか。全体としては例年と比較すると問題は易しめの方であり、特に事例問題については、問題60及び61とも、正解の選択肢を選ぶのにそう迷うこともなかったであろう。 ただ全体の出題内容のバランスとしては、問題57で障害者福祉制度の発展過程(歴史)の出題がなされたが、全体としては、障害者総合支援法の出題が多くを占め、その点では出題基準を鑑みればバランスを欠いた問題であったと言える。確かに試験全体としては他科目で障害分野にかかわる出題もなされているが、例えば障害者福祉の理念、あるいは各種統計を用いた障害者の状況など、過去の出題実績から言えば、障害者福祉を理解する上で大事な内容の出題も必要だったのではないだろうか。 なお余談ではあるが、平成30年4月施行の改正障害者総合支援法の出題はされなかった。過去の試験では法改正があっても試験日において施行されていない内容は出題されない場合が多いので、推測だが第31回試験では出題がおおいに予想される。特に新サービスである自立生活援助と就労定着支援は、事例問題なども含めて出題の可能性はかなり高いと思われる。
低所得者に対する
支援と生活保護制度
出題内容の難易度としては平均的で、出題傾向も大きな変化なく出題された。事例問題が2問で、28回試験が事例2問、29回試験が1問であったため、事例問題の出題も例年どおりの出題である。出題内容は、生活困窮者自立支援法からの出題、被保護調査からの出題、生活保護法からの出題、福祉事務所を設置していない町村の役割と機能、これらの出題には生活困窮者自立支援法の制度改正を意識しつつも、基礎的な学習で対応できる難易度である。また、自立支援プログラムの「基本方針」についての出題も、目的としている概念を出題しており、踏み込んだ出題ではない。問題69の事例は、いわゆる8050と自治体の総合相談、公営住宅の基本的制度を組み合わせた事例であり、時事的な出題であったため出題の趣旨を掴むことが必要とされた出題であった。
保健医療サービス 平成30年4月に各報酬改定直前の今国家試験らしい出題であった。また、在宅医療推進を強く意識した出題内容でもある、医療の変革を理解して具体的な潮流を知っていれば正答に近づくことができるが、その流れをつかんでいない場合は苦慮する出題内容であった。出題分野の配分は例年と変化なく、事例問題が1問出題で平均的な難易度であり、その他、国民医療費からの出題、診療報酬制度、医療施設、医療提供体制、医療法は頻出の項目である。近年毎回出題されている医療専門職関連法規は医師法からの出題であったが、近年難易度の高い傾向があったものの、比較的平易な出題であった。いづれにしても、目指す医療体制をしっかりと把握した上で例年出題される項目を丁寧に学習してゆくプロセスが、今後の試験においても大切である。
権利擁護と
成年後見制度
問題80で、旧試験制度の「法学」ではそれなりに出題されていた「行政事件訴訟法」が出題された以外では、本年度についても例年と同様、出題基準に沿った形での、安定した出題数のバランスであったと言えると思う。科目の内容も含め、受験生の多くが苦手科目の1つしているので、バランスの安定は重要な作問上のポイントになると思う。このためその意味では量門が揃った出題内容であろう。成年後見制度を中心に、任意後見制度や、すっかり定番の出題内容となった「成年後見事件の概況」など、しっかりとした受験対策をしてきた受験生の努力にこたえる出題内容であったと思う。 難易度については、この科目の例年の難しさに比べれば今年は易化した方ではないかと思うが、午前科目の最後であるので、試験時間終了近くで疲弊している受験生としては、今年も解答に苦労した受験生も多かったのではないだろうか。特に今年は民法に関する分野は例年以上に難しかったと思われる。 総じて言えば、易しい問題と難易度の高い問題の落差に戸惑う受験生が、多かったのでないかと思うが、例えば問題80など一見すれば事例問題形式で複雑な内容に見えるが、民法の扶養義務の規定からシンプルに考えれば、正解は自然と選ぶことができる。このような視点で見れば、基本的な知識がきちんと定着していたかどうかの差で、受験生の出来は大きく分かれるのではないだろうか。

 

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