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第17回 精神保健福祉士国家試験 科目別分析【共通科目】

共通科目 分析
人体の構造と
機能及び疾病
 本試験最初の科目であり、試験開始直後の緊張の中で解答することとなる。出題の内容としては決して難易度が高いものではなかったが、7問全ての設問が短文で問われており、自信を持って誤りであると除外できなかった場合、迷って時間を費やした受験生も多かったのではないだろうか。問題1人体の構造に関する問題、問題3糖尿病に関する問題、問題5生涯の概要に関する問題、問題6DSM-Ⅳによる統合失調症診断に関する問題、この4問については、正答としての1つを容易に解答することが出来たのではないだろうか。また、問題2のICF、問題4の多発性脳梗塞、問題6のDSM-Ⅳについては、前回試験でも出題された分野であり、これらの問題についても過去問だけでなく摸試問題で経験していた受験生が多かったのではないか。
心理学理論と
心理的支援
 キーワードのみを設問として問うのではなく、それぞれのキーワードを理解していることを求められる出題であった。出題分野は出題項目に沿っており、問題8感覚と知覚、問題10防衛機制、問題11ストレスとコーピングなど、頻出問題ではあるものの、頻出問題であるが故に丁寧な理解と選択肢を絞り込む技術の両面が求められる問題である。特徴的な問題として、問題13に出題のあった、来談者中心療法での「感情の明確化」を実際の面接場面事例として出題されたことは、次年度以降の学習の参考になる。感情の明確化というキーワードは暗記していても、それがどのような方法で実践されるものなのかというところまで求めている。問題14に出題された心理療法に関する出題においても、それぞれの効果や方法を具体的に問うものであり、曖昧な暗記の中では解答に迷った受験生も多かったのではないだろうか。
社会理論と
社会システム
 出題項目に沿った標準的な出題であった。そのような中でも、問題17に出題された限界集落の概念、問題18で出題された家族と世帯に関する出題は、国民生活基礎調査や一般的に話題となっている用語を定義づけ、データの傾向を把握していることが求められた。出題の全体的なコンセプトとして、社会と人や資源や法と人といった社会理論そのものを個人にも当てはめられる実践的な出題傾向である。それ故、出題中4問が、最も適切なもの1つを選択する問題であったため、選択絞り込みをした後の正答選択で迷った受験生も多かったのではないだろうか。問題19を人の生涯の軌跡を問う問題として、生活をとらえるライフサイクルやライフコース、ライフイベントを選択に並べた問題も、社会福祉士の実践場面に役立つ問題である。
現代社会と福祉  内容としては例年通りの難問ぞろいだった。ただし全く得点できない難問なのではなく、深い学習を重ねてきた受験生にとっては、実は良問ぞろいであったと思われる。単なる丸暗記ではなく、時代背景を踏まえた福祉の歴史的発展を学んだ上で体系的な学習をしてきた受験生にとっては、むしろ例年の出題より易しく感じたのではないだろうか。概念の理解さえしっかりしていれば容易に正答がわかるものや、重要な用語の意味さえきちんとつかめていれば、まさに「基本的」といえるような出題をされていたのが、今年の「現代社会と福祉」の傾向といえるだろう。
 ここ数年の出題では理論動向や学術研究など「原理論」色が強くなってきていたり、それに加えて従来の社会福祉の範囲を大きく超えた分野からの出題が見られるため、午前の科目において最も点のとりにくい科目の1つとなっていたが、出題基準に示されている内容の通り、福祉政策を中心に据え、制度・政策を個別に理解するのではなく、時系列で発展過程の流れを理解し、各項目を相互に関連付けながら多面的に把握するという、そういった受験生の「解答力」を試す、力量が求められる出題内容であった。
地域福祉の
理論と方法
 問題数もさることながら、例年出題範囲が広く難易度が高い『地域福祉の理論と方法』であるが、今年も正答を導くのに悩まされた受験生も多かったのではないだろうか。地域包括ケアシステム、イギリスにおける地域福祉の源流、ボランティア活動等から出題されたが、特に問37の各種報告書や白書、問41の近年の制度変遷についての出題は、難度が高い部類に入ると思われる。なおその分、問38や問39など、確実に得点が見込まれる易しいものもあり、バランスを考えた出題となっていた。
 近年の出題は制度化した地域福祉からの出題が多くなっているようであったが、今回はやや後退したようである。また人物・業績的な、理論に関する出題が見られなかった。ただ例年必ず出題されている「地域福祉の発展過程」「行政組織や民間組織の役割と実際」「専門職や地域住民の役割と実際」は、分野ごとに今年も出題されており、他の科目とのバランスを考えれば、全体としては良く考えられた出題であったと思われる。
福祉行財政と
福祉計画
 福祉行財政分野から4問、福祉計画から3問の出題であり、出題形式は固定化されてきているといえる。問題42から問題45までが福祉財政分野の問題で、基本的な事項が理解できていれば、解答を得ることは難しくなかったのではないだろうか。問題46から問題48が福祉計画分野からの出題で、計画策定における基本的な要綱を押さえておけば、十分対応できた問題といえる。 問題42の地方財政に関する設問では、最終支出ベースにおける国と地方の比率と、国民が負担する租税収入の配分における国と地方の比率が逆転して、両者の間に大きな乖離が存在することを理解できていれば、解答を導ける。問題43は、福祉サービスにおける保険料と利用料に関する問題であった。今年度は、介護保険法のドラステックな改正が行われたので、新聞などに目を通していれば、利用者の自己負担がどのような仕組みとなっているかを理解できれば、正解は1と答えられたはずである。問題44は、昨年に引き続き消費税からの出題となった。税法上の消費税の意味合いを理解できていれば、5が正解であるとわかる。問題45は、措置制度に関するものであるが、措置制度の原理・原則が理解できていれば正解を導ける。問題46の福祉計画の策定段階における、住民の意見の反映に関する設問は、この教科に対する受験対策をしっかりとしてきたものにとっては、間違いなく正解を導けたと思われる。問題47は、福祉・医療計画の策定技法と評価に対する問題である。ニーズ調査、プロセス指標、インプット指標、費用・効果分析といった用語を理解できていれば、比較的容易に解くことが可能であったと思う。問題48は、福祉計画に関する策定事項についての、問題であった。各事業計画に関する基本的な事項を、しっかりと整理しておけば正解でたはずだ。今年度における、この科目の特徴としては、テキストを中心とした本来の国家試験対策で、対応することが可能となったことがあげられる。従来実務従事者にとって有利と言われてきた科目であったが、ようやくあるべき姿へと原点回帰できたといえる。
社会保障  社会保険が出題の中心になっているのは毎回のことであるが、社会保障制度の体系や具体的な内容について問われることが多く、細かい制度の手続き部分なども出題されることもあり、今回も全体的に難度が高い出題内容であった。特に事例問題の2つについては、難度が高く、きちんとした学習をこなしてきたかどうかで、得点ができたかどうか、受験生間で大きな差が出たのではないかと思われる。
 内容については、厚生労働白書、審議会の勧告等、社会保障の財源、児童手当などの分野から出題されたが、社会保険分野からは、年金保険、医療保険、雇用保険がそれぞれ1問ずつ出題されたが、労災保険からの出題がなかった。また介護保険については、問51で選択肢の1つとして出題されたのみであった。
 諸外国の社会保障制度や、社会保障制度全般に対する問題など、難問化しやすいテーマからの出題はなかったが、いたずらに出題分野が広がることは今回もなく、問53の児童手当の出題など、明らかに易しい出題もあり、例年通りの出題傾向と言えるのではないだろうか。
障害者に対する支援と
障害者自立支援制度
 障害者総合支援法、改正児童福祉法による障害児童支援のサービスなど、例年通り、福祉サービスを中心として最新のしっかりとした知識が要求される問題だった。その上で障害者福祉の歴史的展開や、虐待対応状況調査など、障害者福祉を理解する上で大事な内容が随所で盛り込まれており、問57の障害支援区分の判定の問題で細かい点が問われた以外では、広範囲ながらもバランスの良い、お手本のような出題であった。
 また改正精神保健福祉法に直接かかわる内容ではなかったが、精神科入院形態としての医療保護入院の出題や、障害者差別解消法など、この分野については容易に出題が予想できる内容だったので、きちんと受験対策として学習をした上で試験に臨んだ受験生が得点できる、試験というフィルターの役割を担うという意味でも、良い出題であったと思われる。
 例年の傾向としては過去問をきちんと学習していれば解ける基本的な問題と、法改正や統計資料を含めた新動向の問題が出やすいのが特徴であるので、本年も概ね従来通りの傾向というのが総合的な印象である。
低所得者に対する
支援と生活保護制度
 一部の問題で細かい点を問う内容があったため、多少難しく感じる部分もあったが、全体としては例年通り、生活保護法中心の標準的な問題であった。この科目については、近年の社会福祉制度全般における制度改革のなかでは比較的変動が少ないため、対策が立てやすい科目である。このため今年は改正生活保護法に関する出題がなされるのか、その点は注視していたが、今回では出題されなかった。また生活困窮者自立支援法についても同様に出題がなかった。
 この科目については、他の科目と比較して出題のボリュームが最も少ないことに加え、出題傾向も安定していること。生活保護法から中心的に出題され、しかも全体にわたって満遍なく出題されていること。出題内容も条文の内容をそのまま規定通り出題する場合が多いこと。これらの理由から、午前科目の中では最も得点しやすい科目といえるであろう。試験での合格を考えると必ず得点源とする必要があり、それは他の科目と比較すると十分に可能なことである。試験対策上、時間をかければ必ず攻略できる科目であることは間違いない。
 よって裏を返せば、この科目の出来がすなわち試験全体の出来を表す、リトマス的な科目と見ることができる。今年もその役割を果たすことに、非常参考となる、良い出題内容であった。
保健医療サービス  択一問題が5問、事例択一問題が2問の出題であった。出題方法としては、例年通りの方法であり、出題された内容も問題70が高額療養費に関する問題、問題71が頻出問題である国民医療費に関する問題、問題73が医療計画に関する問題、問題74が医療専門職からの出題であり、概ね出題頻度が高い分野からの出題である。問題72の事例は、80歳男性がサービス付き高齢者向け住宅入居中で、在宅療養支援診療所から訪問診療を受けるといった、住まいと医療を合わせて問う問題であった。問題75の医療ソーシャルワーカーの歴史と機能については、出題項目にはあるものの過去に一つの問題として出題されたことがなく、過去問の解答学習を中心に勉強していた受験生には、見落としがちな分野だったのではないだろうか。7問全てにおいて、ごく標準的な難易度の出題であった。
権利擁護と
成年後見制度
 本年度についても例年と同様、出題基準に沿った形での、安定した出題数のバランスであった。この科目も傾向としては安定していると見ることがきできる。但し選択肢の中には一部細かい点を問う内容もあり、午前科目の最後であるので、試験時間終了近くで疲弊している受験生としては、易しい問題と難易度の高い問題の落差に戸惑い、最後の最後で苦戦を強いられた受験生が、相応数いたのではないだろうか。
 特徴的な傾向としては、旧試験科目の「法学」の頃には定番の出題であった、行政手続法が出題されたことである。行政法の分野は確かに新試験制度以降においても第24回以降から連続して出題されているが、ここまでの内容は初めてのことである。 但し個別の問題に目をむけてみれば、問77や問82など、正解が容易にわかる問題もあり、また問81においては、しっかりとした受験対策をしてきた受験生であれば必ず見ているであろう「成年後見事件の概況」から出題されるなど、ここ数年の過去の出題内容と総合的に比較すると、全体としては、今年はむしろ易しい方の出題内容と言える。最後まであきらめず頑張った受験生は、ここで最後の最後で合否をわけるぐらいの点数の上積みができたのではないだろうか。

 

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