領域 |
午前科目 |
分析 |
領域I
人間と社会 |
人間の尊厳と自立 |
1問目は、糸賀一雄が提唱した「この子らを世の光に」という思想に関する出題、2問目は、訪問介護事業所でのアルツハイマー型認知症への支援の仕方を問う出題となっている。昨年の日本国憲法第25条が規定する生存権(朝日訴訟の事例)、障害者差別解消法に関する出題、一昨年の福祉関係各法における自立、訪問介護員の軽度認知症利用者への支援の仕方に関する事例問題からみると、今年は、人間の尊厳と自立の実践者に関する出題、及び事例問題となっている。糸賀一雄は、知的障害児福祉の先駆者であり、発達保障を唱えた人物である。少なくとも、人間の尊厳と人権に関わった人たちの考え方、功績は、押さえておくべきであろう。事例問題は、認知症の利用者と家族との関わり方を問われている。その人らしさを大切にすることを基本にしつつ、認知症の症状を踏まえた関わり方が必要とされる。アドボカシーの定義、社会資源の活用を理解していれば、解ける問題である。事例問題としては、障害のある利用者の権利擁護に関する問題は今後も出題されると思われる。法的側面、社会資源の役割と共に、日頃から問題意識を持って学習に取り組んでいくことが大切である。
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人間関係と
コミュニケーション |
昨年と同様に、2問の出題となっている。昨年は、ラポールの形成、加齢性難聴者とのコミュニケーション技法に関する事例問題であった。今年の1問は、共感的態度に関する出題と、もう1問は、パーキンソン病のある利用者とのコミュニケーション技法に関する事例問題となっている。最初の1問は、コミュニケーションの基本的な知識を問う出題となっており、赤マル模擬試験で学習されていれば十分解答できる問題である。次の事例問題では、限られた情報から正答を導き出すことになるが、利用者の状況を的確に把握し、コミュニケーションの互いに理解を深めて分かり合うという機能を考えれば、容易に正答にたどり着く問題である。今後も、コミュニケーションの基本、及び障害のある利用者の状況、状態に応じたコミュンケーション技法について学習しておくべきであろう。また、日々の業務における対人関係でのコミュニケーションについて、意識的に活用できる知識や技術を身に着けておくことが大切である。
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社会の理解 |
本科目は社会の変化に応じた介護支援に関連する知識、法律、政策に関しての理解度の習得を目的としている。最近では福祉の基礎となる考え方や法制度を中心とした幅広い領域からの出題が特徴的である。今回は利用者の自己決定等の尊厳を踏まえた支援姿勢(問題10)、医療供給体制の確保に伴う関係機関(問題15)、そしてセーフティーネットとしての生活保護制度の原理・原則(問題16)と近年の福祉的課題を象徴した出題が見受けられた。もちろん従来から出題の多い社会保障の諸制度(問題7)、各法制度改正における変更点(問題8)、人口動態の特徴(問題6)などは予想通りの出題となった。また年々顕著な障害者分野に関しては、障害者の人権を守る関連施策(問題11、14)、中心である障害者総合支援法からの出題(問題12、13、)と幅広い知識を問う問題であった。当該科目全体から見た場合、介護を取り巻く最近の社会状況に意識を向け、基本的知識を持って勘案することにより、正解を導くことができる問題が大部分を占めると思われる。しかし法的権利(問題5)にみられる福祉行政の基本的枠組みの理解を求める問題の出題等、当該科目の出題範囲の広がりも示唆される。
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領域II
介護 |
介護の基本 |
出題数は、昨年と変わらず事例問題1問を含む16問。今回の試験では、国民生活基礎調査、社会福祉士及び介護福祉士法の誠実義務、自己決定、リハビリテーション、サービス担当者会議、労働安全衛生法、感染対策、リスクマネジメント、ストレスマネジメント、福祉用具のJIS認証マーク、障害者年金等、利用者主体の実現、通所介護、個別ケアの具体的展開などに関する問題が出題されている。例年出題されているICFや介護実践における連携に関する出題はなし。今回、特徴的なのは「福祉用具のJIS認証マーク」を提示し正答を求める問題28である。見慣れないマークにどきりとした受験生もいたのではないかと思うが、JISの意味が理解できていれば容易に正答にたどり着ける問題である。また、問題17「国民生活基礎調査」は、赤マル福祉の模擬問題でも出題されており、今後も出題傾向が高いと思われる。科目全体として、基本的知識を問う内容であり、難易度は昨年同様に標準的といえよう。「介護の基本」は、介護領域の中核をなし、介護福祉士として利用者の生活を多角的にとらえ支援するうえで基本となる知識を学ぶ科目である。この科目において、確実に得点を伸ばすには各制度の理解が必須であり、「社会の理解」と併せた学習を進めていくことが必要である。
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コミュニケーション
技術 |
昨年と同様に、8問の出題となっている。出題基準の大項目「介護場面における利用者・家族とのコミュニケーション」から7問(事例問題5問)、「介護におけるチームのコミュニケーション」から1問(介護記録)となっている。問題34は、双極性感情障害がある利用者への対応の仕方の問題である。躁状態の症状を理解し対処の仕方を学習しておく必要がある。問題36は、アルツハイマー型認知症のある利用者への対応で、問題文を良く読んで理解できれば、正答にたどり着くであろう。問題37は、脳梗塞の後遺症で聴覚的理解、視覚的理解の障害のある利用者への対応で、問題文の要点をよく理解する必要があるが、戸惑う問題である。問題39は、箱型補聴器を使用する利用者への対応の仕方を問う問題である。消去法で考えれば、正答にたどり着くであろうが、判断に迷う問題である。今年は、障害のある利用者への対応に関する事例問題が多く、基本的知識のみでは、正答に辿り着くのが難しい、ひねった問題となっている。障害のタイプに応じた具体的な対応や留意点をイメージできるかが大事であろう。また、問題をよく読み、何がポイントか、よく見極める力も必要である。
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生活支援技術 |
本科目の出題数は昨年同様の20問であった。「生活支援」、自立に向けた「身じたくの介護」「移動の介護」「食事の介護」「入浴の介護」「排泄の介護」「終末期の介護」からは各2問、「居住環境の整備」「睡眠の介護」からは1問、「家事の介護」からは4問あり、出題基準の大項目のすべてが網羅された出題となっていた。出題内容の傾向としては多くの問題は介護の基本的事項の習得で解答できる問題であったが、問題47、58では専門職として根拠のある介護技術の方法や、利用者の状況や疾病の特性に合わせた介護の知識を問う問題がみられた。また問題56では悪徳商法や詐欺について介護福祉職の助言に関する設問で、現代の社会問題となっている事柄が出題されている。これからの高齢社会を見据えた生活支援の必要性を示唆していると考えられる。今年度の質問形式は1問が「適切なもの」となっていたが、他19問は「最も適切なもの」を1つ選択するようになっている。確かな知識や技術の習得がなされていないと躊躇するような問題もあったが、科目としては昨年同様に標準的な難易度であった。
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介護過程 |
例年同様、出題数は8問であった。
最も多くの割合を占めた出題項目は、介護過程の「展開プロセス」であり、8問中6問出題された。そのうち、「アセスメント」からは「情報収集における留意点」「客観的情報の記録方法」「アセスメントの基礎知識」「事例におけるICF(国際生活機能分類)に基づいた情報収集の内容」の4問が出題され、比重が高かった。その他、「計画の立案」からは「事例における解決すべき生活課題の設定」1問、「評価」からは「事例における評価の視点」1問が出題された。
「展開プロセス」以外からは、「介護過程の意義」と関連して「介護過程の目的」、「チームアプローチ」と関連して「事例におけるカンファレンス時の介護福祉職の役割」について各1問出題された。
本科目における今回(第28回)国家試験の特徴は、ICF(国際生活機能分類)に基づくアセスメントの視点が問われた点である。また、介護過程の意義、展開プロセスの基本的理解を踏まえ、利用者の状況に応じた介護のあり方を問う事例形式の出題が4問あった。過去4年分の出題を確認すると、前回(第27回)国家試験から事例形式の出題数が増加している。利用者を身体・精神・社会的な視点から総合的に理解し、支援の方向性を導き出せるよう実践的な学習をすることが必要である。
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