各科目ワンポイントアドバイス介護の基本
この科目は、介護福祉の歴史や法制度(社会福祉士及び介護福祉士法・介護保険法など)を始め、リハビリテーション、職業倫理、リスクマネジメント、多職種協働など幅広い知識が問われます。
今回のテーマは「ICF:(国際生活機能分類)」です。
ICFに関する問題は、介護の基本の科目のみならず、介護過程や障害の理解の科目でも出題されています。毎年必ずと言っていいほど出題されている項目です。理解しておくべきポイントをまとめてみたいと思います。
では始めましょう。
「ICF」モデルでは、大きく分けて6つの構成要素が存在します。それは何でしょうか?
健康状態、心身機能・身体構造、活動、参加、環境因子、個人因子
「ICF」とは、人間の生活機能と障害の分類方法として、2001年世界保健機関(WHO)総会において採択されました。ICFを活用することにより、障害や疾病を持った人、その家族、医療・福祉従事者が、障害や疾病の状態についての共通理解を持つことができるようになります。いわば共通言語として活用することが期待されています。多職種協働が重要視されている昨今、介護福祉士がICFを理解しておくことは必要不可欠です。
実際に出題された試験問題を通して理解を深めていきます。
介護福祉士 第32回 問題19を解いてみましょう。
- ICF(International Classification of Functioning, Disability and Health:国際生活機能分類)の視点に基づく環境因子と心身機能の関連を表す記述として、最も適切なものを1つ選びなさい。
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- 電気スタンドをつけて、読書を楽しむ。
- 車いすを使用して、美術館に行く。
- 聴力が低下すると、コミュニケーションがうまくとれない。
- ストレスが溜まると、活力が低下する。
- 床面の性状が柔らかいと、バランスを崩す。
皆さん、正解の選択肢を選べたでしょうか?
介護福祉士国家試験では、利用者の情報の1つ1つが上記6つの構成要素のどこに分類されるのか、そして、どの構成要素と相互に作用しあっているのかを問われることが多いです。
そのためまずは、各構成要素には具体的にどのような情報が入るのかを確認しましょう。
●【ICFモデルにおける用語の定義】
健康状態: | 病気(疾病)、失調、障害など (例)脳梗塞、統合失調症、脳性麻痺など |
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心身機能: | 体のはたらきや精神のはたらき (例)身体の麻痺、筋力低下、認知症、腎不全など |
身体構造: | 身体の一部の構成などの解剖学的な部分(肢体・器官など) (例)手足の切断、指の欠損など |
活動 : | 個人が生きていくうえで役立つさまざまな生活行為のこと (例)歩行等のADL、買い物や調理等のIADLなど |
参加 : | 社会的な出来事に関与したり、役割を果たすこと (例)主婦としての役割、仕事場での役割、友人や地域社会での役割など |
環境因子: | 生活するなかでの物的環境や人的環境、社会的環境 (例)住環境、支援機器、家族、社会の意識や態度、地域資源、行政サービス、法制度など |
個人因子: | 個人の人生や生活の特有な背景、特徴 (例)性別や年齢、性格、価値観、趣味、嗜好、ライフスタイル、生育歴、職業、過去の経験など |
6つの構成要素の名称だけでなく、どの情報がどの構成要素に入るのか具体的に理解しておきましょう。
次に、ICFの構成要素間の相互作用についてです。図1を見てください。
構成要素が他の構成要素と関連し合っていることがわかると思います。この図に具体的な情報を入れて考えてみましょう。例えば、歩行することが困難だが、電動車いすを使用すれば移動することができる、というケースの場合、歩行困難という「活動」の制限を、電動車いすという支援機器、つまり「環境因子」により生活上の困難を改善している、と考えることができます。
このことは「活動」と「環境因子」が相互に作用している、と解釈されます。一つ一つの情報がどのように関連しているかを考えることにより、利用者の状態の理解が深まることにつながります。
では、先ほどの問題の選択肢について考えてみましょう。今回の問題の選択肢には、1つの文章の中に、2つの構成要素の情報が含まれていました。
- 選択肢1:
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電気スタンドをつける = 環境因子 読書を楽しむ = 活動
- 選択肢2:
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車いすを使用 = 環境因子 美術館に行く = 参加
- 選択肢3:
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聴力が低下 = 身体構造 コミュニケーションが
うまくとれない= 心身機能
- 選択肢4:
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ストレスが溜まる = 健康状態 活力が低下する = 心身機能
- 選択肢5:
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床面の性状が柔らかい = 環境因子 バランスを崩す = 心身機能
したがって、正解は5となります。
いかがでしょうか?
介護福祉士国家試験では、ICFについてさらに細かな知識を問う問題も出題されています。(「活動」、「参加」の構成要素における「能力」と「実行状況」の違いを問う問題や、「生活機能」・「背景因子」という用語の意味を問う問題など)しかし、このような問題は今回学んだことがわからなければ解けません。そのため、利用者の情報の1つ1つがどの構成要素に入るのか、しっかりと理解しておきましょう。
参考文献・URL
- 上田敏(2005)『ICF(国際機能分類)の理解と活用-人が「生きること」「生きることの困難(障害)をどうとらえるか」』きょうされん
- 編集 介護福祉士養成講座編集委員会(2019)『最新 介護福祉士養成講座 介護の基本Ⅰ』中央法規
- 厚生労働省(2002)「国際機能分類-国際障害分類改訂版-(日本語版)」
https://www.mhlw.go.jp/houdou/2002/08/h0805-1.html
(最終閲覧日2021年10月12日)