各科目ワンポイントアドバイスソーシャルワークの理論と方法(専門)

第37回の国家試験より、新カリキュラムの内容から出題されるようになり、「ソーシャルワークの理論と方法」は共通科目と専門科目に分かれました。
社会福祉士としての専門性がより求められる内容も多く、共通科目と比較して点数が取りにくくなる傾向になるかと思いますが、「出題基準」を見ますと、援助関係の形成方法、面接技術、アウトリーチ、ソーシャルアクションなど、点数の取りやすい項目もあります。

今回のテーマは「ソーシャルワークにおける援助関係」です。
相談援助活動を行う上で、援助関係の理解は必要不可欠です。
このワンポイントアドバイスでは、社会福祉士の専門科目の内容として取り上げていますが、精神保健福祉士や介護福祉士を受験される方もぜひ理解しておきたい内容です。

では始めましょう。
ソーシャルワーカーが、自己の思想や価値観、感情および言動のメカニズム、パーソナリティ等について客観的に理解し、自分自身を知ることを何というでしょうか?

それでは確認です。

自己覚知

援助関係において、クライエントを共感的に理解するため、ソーシャルワーカーは普段から自らの価値観の特徴を知っておくことが重要となります。
続いて、ソーシャルワークにおける援助関係について、実際に出題された試験問題を通して、理解を深めていきます。

社会福祉士 第35回 問題104を解いてみましょう。

ソーシャルワークにおける援助関係に関する次の記述のうち、適切なものを2つ選びなさい。
  1. 転移とは、ソーシャルワーカーが、クライエントに対して抱く情緒的反応全般をいう。
  2. 統制された情緒的関与とは、ソーシャルワーカーが、自らの感情を自覚し、適切にコントロールしてクライエントに関わることをいう。
  3. 同一化とは、ソーシャルワーカーが、クライエントの言動や態度などに対して、自らの価値観に基づく判断を避けることをいう。
  4. エゴグラムとは、ソーシャルワーカーが、地域住民同士の関係について、その相互作用を図式化して示すツールをいう。
  5. パターナリズムとは、ソーシャルワーカーが、クライエントの意思に関わりなく、本人の利益のために、本人に代わって判断することをいう。

皆さん、正解の選択肢を選べましたでしょうか?
それでは、選択肢ごとのポイントをまとめていきます。

選択肢1:
転移とは、クライエントが自己の感情をソーシャルワーカーに向けることをいいます。これと合わせておさえておきたいのが、逆転移です。逆転移とは、ソーシャルワーカーが自己の感情をクライエントに向けることをいいます。転移信頼関係ラポール)の形成に役立つこともありますが、逆転移は、適切な援助関係を妨げるものとなります。ソーシャルワーカーは逆転移に陥らないよう気をつける必要があり、そのためにも自己覚知は重要となります。
選択肢2:
これが正解の選択肢の1つです。「統制された情緒的関与」は、バイステックの7原則の1つで、クライエントが怒りや不満、非難といった否定的な感情表現をした場合であっても、ソーシャルワーカーは動揺することなく冷静に受け止め、自己の感情をコントロールしながら落ち着いた対応をすることをいいます。
選択肢3:
同一化とは、防衛機制の一種で、自分の尊敬する人や理想とする人の振舞いや特徴を真似て欲求を満たそうとすることをいいます。「クライエントの言動や態度などに対して、自らの価値観に基づく判断を避けること」は、バイステックの7原則の1つ、「非審判的態度の原則」です。
選択肢4:
エゴグラムとは、交流分析理論に基づき、人間の性格を5領域に分類し分析するものです。これに関連し、集団内の人間関係やその構造を図式化したものはソシオグラムクライエントと家族の関係、地域生活支援や社会資源などの関わりを図式化したものはエコマップ、ということもおさえておきましょう。
選択肢5:
これが正解の選択肢の1つです。パターナリズムとは、ソーシャルワーカーが主導権を握る援助関係であり、クライエントの自己決定よりも、ソーシャルワーカー主導で主たる判断がなされることをいいます。

選択肢2に関連し、バイステックの7原則の重要事項を整理すると、次のようになります。

  • 個別化の原則…
    利用者を個人としてとらえる
  • 意図的な感情表出の原則…
    クライエントが自己の感情を気兼ねなく表現できるように援助者が関わる
  • 統制された情緒的関与の原則…
    ソーシャルワーカーが自らの感情を自覚、吟味して、クライエントの感情に対して適切に反応すること
  • 受容の原則…
    クライエントのありのままの姿を、道徳的批判等を加えずに受け止める
  • 非審判的態度の原則…
    援助者が自分の倫理観や価値観のみで、利用者を一方的に非難してはならない
  • 自己決定の原則…
    クライエント自身の生活における選択をする際に、その選択肢を選ぶ最終的な判断をクライエント本人にしてもらうという原則
  • 秘密保持の原則…
    クライエントから知りえた事柄の守秘義務

「意図的な感情表出の原則」と「統制された情緒的関与の原則」の2つは混同しないよう注意が必要です。

ソーシャルワークにおける援助関係はとても重要です。今後も出題されることが予想されます。この科目の重要事項の一つとなりますので、過去問学習を通し、確実に点数を取れるようにしましょう。