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第30回 社会福祉士国家試験 科目別分析【専門科目】

専門科目 分析
社会調査の基礎 この科目が試験で出題されはじめてから数年は、受験生一般の平均的な学習習熟度を超えた、難易度の高い内容が出題され続けたため、午後科目の最初であるこの科目において、毎年のごとく開始後出鼻をくじかれる、受験生が多かった。しかしながらここ数年ではその傾向が和らぎ、テキストレベルの、科目名通り「基礎」的な出題が中心となってきた。その傾向を受け、今年も社会調査一般の大切な知識を問うテーマが多く、その点では、受験生は安心して問題に取り組めたのではないだろうか。 特徴的な問題を挙げるとすれば、先ずは問題90であろう。内容としては過去の出題実績を考えれば驚くようなものではないものの(既出題の用語もあり)、用語の意味をきちんと把握していない受験生は正解を選ぶことが出来ず、一部の声としては問題を見た瞬間に「捨て問題」としてしまった受験生もいたようである。この科目の最後の設問であるので、早く次の科目に取り組みたいという意識が働いたのかもしれないが、午前科目と違い、午後科目は問題を解くのに時間的な余裕があることからも、易しくはないものの決して難度が高い問題でもないので、こういった点は非常に残念なことである。 また問題84で統計法の出題がなされた。独立した1問の出題であり、かつ受験対策としてなかなか手がまわらない分野であることから、こちらも決して難易度は高くないものの、きちんと学習を進めたかどうかで得点できたか、受験生の間では差が出そうな問題である。
相談援助の
基盤と専門職
例年、午後科目の中でも比較的得点しやすい科目の1つであるが、今年はしっかりと学習をすすめて試験に臨んだ受験生にとっては、7問すべて正解できると思われる、平易かつ基本的な内容を一通り問う、良問揃いの内容であった。選択肢ごとを見ても判断に迷うようなものも特に見あたらず、ここで得点を稼いだ受験生が多かったと思われる。 問題全般の傾向として、一問一答形式にしても事例問題にしても、合格水準に達している知識を持った受験生であれば、ほぼ容易に解答できるような出題内容であり、問題91の社会福祉士の業務と義務や、問題92のグローバル定義などは、出題が十分に予想できるものである。また問題93の社会福祉の発展に寄与した人物についても、落ち着いて語彙を確認し、正解である選択肢3の岡村先生の理論的特徴からも、それぞれの不正解の選択肢における人物ごとの業績からも、容易に問題を解くことができる。 また事例問題についても、問題94と問題97の2問とも、ざっと問題文を読んだだけでも、選択肢の正答が明らかに一つ絞れる内容であった。素直に、そして文意の通り、余計な先入観などを一切排除し、原則通り考えて選択肢を選べばよいだけなので、ここでの得点は合格のためには必須であろう。
相談援助の
理論と方法
今年も「例年通り」と言える出題の内容であった。ソーシャルワークにおける主要人物の理論と代表的なアプローチ、並びに多様な場面における事例問題を中心に、出題基準の全般にわたり、非常にバランスよく出題がなされていた。問題数は多いが、出題の大部分は社会福祉士としての標準的なテキストレベルの、非常にオーソドックスな事項を問うものばかりであり、受験生としても先の科目である基盤と専門職と合わせて、解答がしやすかったのではないだろうか。比較的受験生が苦手とする理論問題についても、一部の選択肢に判断に迷うものもあるが、過去の出題と比較しても易しい部類の入る内容であった。 特徴的な問題としては、問題117の個人情報保護法や、問題118のICTの活用などであろうか。前者については保護法の内容や、今回は出題されていないが、福祉分野などにおけるガイドラインの内容については、業務上個人のプライバシーにかかわる情報を多く扱う社会福祉士にとっては、必須の知識と言っても良いだろう。また後者については、過去にはこのような類似の出題はないが、出題の分野としては、時代の流れとして今後は必須の知識として位置づけられてゆくことと思う。そういう意味では、広がりを持たせた出題であった。
福祉サービスの
組織と経営
問題の難易度にばらつきが感じられる出題であった。テキストの重要項目を理解できていれば簡単に解くことができた問題が4問、過去問やテキストを確認しても記載されていない用語が出題され、難易度が高い問題が3問となっている。 問題119は社会福祉法人の2016(平成28)年改正を踏まえての出題であった。評議員会の役割が法人の基本的事項について決議する権限をもつことが分かっていれば迷わずに正解を導けたと思う。問題121は組織の環境分析に関する問題であるが、福祉サービスが制度ビジネスであることを理解できていれば容易に解くことができる。問題122の社会福祉法人の財務に関する問題も、財務の基礎的な知識がなくとも、社会福祉充実事業が改正によって新たに位置付けられたことを理解できていれば正解できる。問題124は福祉・介護サービス提供体制からの出題であったが、第三者評価事業の目的さえ分かっていればすぐに答えられるレベルの問題であった。以上の4問に関しては、しっかりと学習していれば確実に得点できる内容であったといえよう。 一方、問題120は福祉施設の組織構造を問う設問であったが、職能別組織、機械的組織、プロジェクト組織といった聞きなれない用語に戸惑ったのではないだろうか。問題123のサービスマネジメント論に関する出題では、サービス・プロフィット・チェーンといった用語が分からないで悩んだ受験生も多かったと思われる。問題125の人材育成や研修に関する出題は昨今の福祉業界の人材難を踏まえて、事前に学習していた受験生も多かったと思われる。しかし、経験学習モデルに関しては、理論としては今回初めて出題されたので困惑されて正解を選ぶのに難儀したはずだ。 しかし、これらの難易度の高い問題であっても、基本的な用語と問題を多く解くことで養われる読解力があれば、決して正解できない内容ではない。日々の学習でこのことを意識して積み重ねていけば、必ず高得点を取ることができると思う。
高齢者に対する
支援と介護保険制度
出題全体において、今年は例年と比べて難しくもなく易しくもなくという、試験全体では標準的な難易度の問題であった。出題数も10問と多いため、介護分野で2問程度の出題もあり、しっかりとした学習をしてきた受験生にとっては、他の科目と比較した場合には、得点を稼ぐ科目となったのではないだろうか。また科目名の通り、介護保険制度からかなりの出題がなされたので、どの受験生も十分に介護保険制度については学習してきたと思わることからも、対応がしやすかったのではないかと思われる。 介護保険以外の特徴的な出題としては、問題126の「高齢社会白書」からの出題や、問題131の高齢者にかかわる保健医療福祉施策などがあげられる。前者の白書の内容や、後者の歴史的な流れの分野など、受験生にとって学習を進める上でなかなか手がまわらない分野であり、このため準備が間に合わなかった受験生は、手を焼いた設問となったのではないだろうか。 なお介護分野については、年度により出題数に差があるものの、先にも触れた通り、問題128と問題129の2問出題されており、ここはバランスを考えた出題であった。ただ内容は平易なものであり、得点はしやすかったと思われるが、それぞれ麻痺と麻痺者への対応にかかわる問題であり、内容のバランスを考えているのなら、介護という分野での出題であるならば、もう少し工夫ないし配慮がほしかったと思う。
児童や家庭に対する
支援と児童・家庭
福祉制度
近年では比較的問題が難化しつつあり、対策の立てづらい科目の一つとなっていたが、昨年ぐらいからその様な傾向から脱し、基本的な問題を中心とした、平易な内容が出題されるようになってきている。このためおり今年もその流れから、他の科目と比較すると、全体的として正答を導きやすい、易化した出題内容であり、問題文も短いものが多いことから、受験生にとっては取り組みやすく、また得点もとりやすかったのではないだろうか。 内容としては科目の性格上、児童福祉法を中心として要保護児童施策の分野が多く出題される傾向にあったが、これも近年の傾向であるが、時代の流れを受け、子育て支援関連の出題が目につくようになってきた。例えば問題136の幼保連携型認定こども園はその顕著な例と言える。また事例であるが問題140の児童虐待や、問題142の里親支援専門相談員なども、児童福祉を学ぶ上で、今の時代を考えればおさえておくべき必須の知識である。 そのような問題もあれば、問題137の障害児福祉の人物の問題や(福井達雨は驚いたが)、問題138の児童の権利関係の出題など、過去の出題から見れば定番であり、かつ正解も容易にわかる平易内容であった。その流れから言えば、問題139の母子生活支援施設や、問題141の児童委員なども同様な位置づけの問題と考えて良いであろう。しっかりと学習を重ねてきた受験生の力量を正確に反映する、このような望ましい作問が揃った出題内容であった。
就労支援サービス 出題数4問という制約の中で、なかなか出題基準の内容を踏まえて万遍なく作問するのは難しい本科目であるが、4問全体のバランスを考えると、過去の出題を踏まえた上で、「就労支援」という学習習熟度をはかる問題としては、良い問題が揃っているのではないだろうか。 具体的にはこの科目では必須の知識と言ってよい、問題143の障害者雇用率の問題にはじまり、問題144の生活困窮者自立支援法の内容も、この科目に限らず、今の時代背景を考えれば必須の知識とも言える。なお問題143では、法改正はされたものの試験日においてまだ施行されてない選択肢1の内容が出題されたが、社会福祉士試験だけに限らず、精神保健福祉士の試験などでも同様に、施行日前の法改正内容の出題はなされている。他の選択肢は法改正に関わる内容ではなく、テキストレベルの基本的な問いということからも、作問上の配慮はなされているので、受験生はぜひとも正解してもらいたい。 また問題145のジョブコーチの問題も、その役割ということで、どういう立場の専門職かと考えれば、内容的には平易なものであると言える。最後の問題146の事例問題については、障害者就業・生活支援センターを用いてはいるが、内容は労働諸法令に基づく分野の出題と言える。その意味ではこちらも考えられた出題といえよう。なお正解の選択肢3は都道府県労働局ではなく労働基準監督署ではないかという指摘もあると思うが、おそらく下部組織を含んだ意味で用いていると思われ、また事例の内容から「総合労働相談コーナー」の利用が推定される。よって不適切な選択肢にはあたらないと思われる。
更生保護制度 過去の出題を見ると、例年「更生保護制度の概要」からの出題が圧倒的に多く、特に制度の概要と保護観察制度が定番化しているので、その意味では今年もその傾向は踏襲されていたと言えるだろう。出題内容についても、過去の試験においては更生保護制度の手続き面における細かい規定まで出題される場合などもあったが、今年は法の条文通りの基本的な事項が問われており、平易な内容と言えるだろう。 なお定番の内容以外では、特徴的な問題として、問題149の触法少年に関する出題があげられる。多くの受験生は触法少年の定義はもちろん理解した上で試験に臨んでいると思うが、関係機関への対応ということになると、正解の選択肢を選ぶのに悩まれたのではないだろうか。全4問の出題の中では、この問題が受験生全般では最も難しかったと思われる。 また問題150で事例問題として医療観察法が出題された。過去にはそれなりに良く出題されていたが、28回及び29回試験では出題されていなかったので、しっかりと過去問対策をしてきたかどうかで、受験生の正答には差が出でたのでないだろうか。 全4問を見て感じたのは、作問者は過去問対策を通じて、しっかりとした学習をしてきた受験生の努力を正当に評価するという意図で、問題を作られているのではないだろうか。そういった作問者の努力の結果の見える、バランスのとれた良い出題であった。

 

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