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第29回 介護福祉士国家試験 科目別分析【午前科目】

領域 午前科目 分析
領域I
人間と社会
人間の尊厳と自立  問題1は、「介護老人福祉施設において、脳血管障害による左片麻痺を持つ人が、転倒したことにより消極的になっていく様子に対する介護福祉職の関わり方を示す」事例問題である。人間の尊厳と自立の基本を冷静に考えれば、容易に解ける問題である。問題2は、ノーマライゼーションに関する出題で、思想を理解していれば、容易に解ける問題である。昨年の知的障害者の発達保障を唱えた糸賀一雄、今年のノーマライゼーションの出題のように、障害者に対する尊厳への出題の関心が高くなってきていると言える。人間の尊厳と自立に関する基本的な理念に関して、昨年のアドボカシー、今年のノーマライゼーションの出題となっており、基本的な用語、理念は理解しておくべきであろう。また、人間の尊厳と自立に携わった歴史上の人物及び最近の人命が軽視される風潮や偏った考え方に関する社会的な出来事には引き続き注視しておくべきであろう。
人間関係と
コミュニケーション
 昨年と同様に2問の出題となっている。問題3は、自己開示に関する出題で、良好な人間関係を構築するためには何が重要かを考えれば、容易に解ける基礎的な問題である。問題4は、「先天的ろう者が、外界の明暗が分かる程度の緑内障を発症したときのコミュニケーションをとるときの手段」を問う事例問題で、各障害を理解し、コミュニケーションの各手段を理解していれば解ける問題である。今年の出題傾向としては、知識、記憶に問う問題ではなく、冷静に考えれば解答にたどり着ける問題といえる。第28回国家試験では、共感的態度に関する問題と、パーキンソン病の利用者への対応、第27回国家試験では、ラポール形成の初期段階の関わりと、重度の加齢性難聴のある利用者への対応からの出題であり、人間関係を構築するためのコミュニケーションの基本的なとりかた、そして、障害を持つ人への対応の仕方と、この傾向は、今後も続くと言える。赤マル福祉でしっかり学習しておくことが大切である。
社会の理解   問題数は事例問題を含め12問。傾向も例年同様、法制度、専門職に関する知識、高齢者、障害者等の福祉の現状に関連したものであった。特に尊厳及び生活保障の視点からの出題が多く、複雑化した福祉的問題を専門職として、どのように対処するかを確認する内容、単なる漠然とした知識の修得ではなく、日常生活、社会状況に注意を払いながら諸制度等を理解、知識を積み上げることの大切さを実感する出題であった。個々の分析として問題5は長寿社会の動向の基本的理解、問題6は第26回でも出題された育児休業に関する出題、問題7、8では社会保障制度の体系的な内容が問われた。制度の基本的理解及び社会状況の認識との関連性の理解が必要とされる。そして問題9、10、11においては介護保険制度に関するサービス、保険者等の役割についての基礎的理解、また問題12、13、14は障害者福祉より障害者総合支援法及び障害者差別解消法の支援内容と機能としての出題であった。特に差別解消法は問題⒗の困窮者自立支援法とともに、現代社会の状況を勘案した場合、予想通りの出題といえよう。かつ問題⒗の事例問題は事業者としての権利擁護の観点より援助の知識を確認する内容であった。
領域II
介護
介護の基本  出題数は昨年までは16問であったが、今回は問題数が大幅に減り事例問題1問を含む10問となっている。今回の試験では介護保険制度の理念や仕組み、高齢者虐待や身体拘束、パーキンソン病の方の生活の質をどう保つかを問う問題、介護保険サービス(特に地域密着型サービス)、リハビリテーションの理念、腰痛予防対策などが出題された。難易度としても、例年通り標準的であり、基本的な知識で解ける問題が多かったと思われる。特徴的だったのは、問題22の災害時、避難所での高齢者の対応方法について問う問題であるが、避難所であっても健康と尊厳を支えるケアが必要なことやエコノミークラス症候群についての理解があれば解ける問題であった。また地域包括ケアシステムの構築が進められているため、その一端を担う地域密着型サービスについて問題23・24と2問も出題されており、今後も出題頻度としては高いと思われる。正答を得るためには、各介護保険サービスの特徴を把握しておく必要があった。 問題数は減ったものの「介護の基本」は介護領域の中核となる科目であり、介護保険制度や高齢者虐待などの権利擁護に関する事項など他の科目でも出題される内容が多いため、重点的に勉強しておく必要がある。
コミュニケーション
技術
昨年と同様に8問の出題となっている。問題27では、コミュニケーション技術の基本からの出題で、非言語的コミュニケーションの意義を問う出題となっている。問題29、30では、障害のある人とのコミュニケーションからの出題で、重度の失語症のある人、中程度の老人性難聴のある人へのコミュニケーションの方法を問う出題となっている。問題31、介護記録からの出題では、個人情報の取り扱いに関するもので、介護記録では昨年に続いての出題となっている。問題32、報告に関しては、ヒヤリハットからの出題で、一昨年に続いての出題である。事例問題では、問題28、居宅介護における介護福祉職の共感のあり方、問題33、軽度の認知症のある人への訪問介護員の対応の仕方、そして問題34、ケアカンファレンスのあり方に関する出題で、事例を題材にして、障害のある人への対応やチームとしての対応の仕方の出題となっている。総じて、基本的な出題であり、問題文をよく読み、理解すれば、解ける問題である。最近の出題傾向としては、障害のある人へのコミュニケーション方法を問う出題が多く、各障害の特徴や具体的な対応、留意点を整理して学習しておくことが大切である。
生活支援技術 本科目は昨年の20問から26問と出題数が増え、そのうち事例問題が4問、図を活用した出題が2問みられた。大項目すべてが網羅されているが、昨年までの各項目が平均した出題ではなく「生活支援」1問、自立に向けた「身じたくの介護」「移動の介護」各5問「居住環境の整備」「排泄の介護」「家事の支援」各3問「食事の介護」「睡眠の介護」各2問「入浴の介護」「終末期の介護」各1問であった。出題内容は各介助の具体的な技法は少なく、自立に向けた環境整備や福祉用具の導入の仕方、食事の介護では利用者の状況や疾病の特性に合わせた食事に関する設問で調理法も含めた広い知識が求められている。身じたくの介護では、問題41、42、43で利用者の特性に応じた介護を問うものであった。事例問題41、44、55では利用者の自立支援を意識した設問になっていた。最も適切なものを選ぶ問題が多い中で、正しいものを選ぶ問題が4問あり原則の理解が問われていた。問題57では図で和食の基本的な配膳の位置を問うもので、一般常識的な知識も必要とされていた。利用者の自立を支援するために介護福祉職の幅広い知識と技術が求められている。
介護過程 例年同様、出題数は8問であった。最も多くの割合を占めた出題項目は、介護過程の「展開プロセス」であり、7問出題された。そのうち、「アセスメント」からは「アセスメントの目的」「主観的情報とはなにか」「事例におけるICF(国際生活機能分類)に基づいた情報の分類」「事例におけるニーズの明確化」「事例における生活課題の設定」の5問が出題され、比重が高かった。その他、「計画の立案」からは「目標の設定に関する基礎知識」1問が出題された。また、展開プロセスにおける記録の方法に関して「SOAP方式での記録方法」について1問出題された。「展開プロセス」以外からは、「チームアプローチ」に関連して「介護計画の修正を行う際に介護福祉職間で共通認識をもつために行うこと」について1問出題された。出題の傾向としては、昨年に引き続きICF(国際生活機能分類)に基づくアセスメントの視点を問うものが出題されており、近年の傾向通り事例形式の出題も3問と多く、本年は新たに介護実践プロセスにおけるSOAP方式での記録方法についての知識が問われていることから、介護過程に関する基礎知識を踏まえて、利用者の状態・状況に応じた実践的展開について問う傾向が強くなっている。介護過程の基礎理論を学習したうえで、事例を通した総合的な学習を行い、介護過程の実践的展開ができる力を身につけることが求められる。

 

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